元ネタは 西の東雲 内カップリングパロディー「人間とポケットサイズの妖精」
Thank's 彩斗!























朝目覚めて最初にすること。

布団の中と周りを見渡すこと。

寝ている間に潜り込んでくる小さな小さな相棒を知らずに押しつぶしていないか確かめる。
沖田の手のひらほどのサイズしかない相棒は故意にか無意識にか、別々に寝ていても勝手に布団に進入してくる。
自業自得とはいえ、部屋の隅に折り畳まれるように吹っ飛ばされていたり、彼女にとっては決して軽くないであろう腕の下敷きになっている姿は朝一番に見るには忍びない。

幸い今日は周囲に気配はない。
大人しく自分の寝床にいるようだ。

頭に引っかかったアイマスクをはぎ取りながら部屋の隅にある文机に目をやると、くしゃりと盛り上がった布が微かに上下しているのが見えた。
布はいわゆる寝具ではない。
象牙色のそれは普段沖田が首に巻いている、スカーフだった。

お休みと言って灯りを消したときは確かに隊服と一緒にハンガーに掛かっていたはずだ。
つまり持ち主が眠っている間に引っぱって来たのだろう。
呑気な寝顔に妙にイラつき、デコピン、と言っても小さな相棒はその額ではなく全身で受け止めることになるのだが、とにかく人差し指と親指で溜めた衝撃を目覚まし替わりにお見舞いしてやろうと右手をスタンバイさせた。

息を殺していざ、と沖田がほくそ笑んだ時、絶妙なタイミングでむへへっと緊張感の無い笑いが漏れる。


「ひじかた、うちとったりぃ」


小さな相棒の実に幸せそうな寝言。










***









「いてててて・・・・・・なんて起こし方すんだよ」


素敵な寝言を漏らしたはデコピンは免れたものの、体に巻きけたスカーフを勢いよく振り上げられ遠心力いっぱいで部屋の端まで吹っ飛んだ。
突然目が覚めたかと思うと、頭の上に自分の足が乗るという有り得ない体勢の所為でしゃちほこにでもなってしまったのかと混乱した。


「お前ェこそひとりで楽しそうな夢みてんじゃねェやい」


なぜか拗ねたような物言いに、相棒の頭の真ん中で胡座をかいてふてくされていたの機嫌が少し浮上する。

一緒に生まれ、不公平にも自分の人生を支配するこの相棒にも夢の内容までは干渉できない。
見ていた夢はその相棒の影響を多分に受けたものだとしても。
妖精と人間はそういうものだと理解しているし、この関係に不満もないが、ちっぽけな自分の夢に一憂する相棒が可愛らしい。
こみ上げる笑いを足元に広がる蜂蜜色で隠す。


「何キモイ笑い方してんでィ」


女の子にキモイとは何事か、女の子が一体どこにいるんだ、うるさい女顔、黙れチビ、とお互い顔も見ずに悪態の応酬を繰り広げながら食堂の入り口に到着する。

扉のない入り口には木のビーズでできた暖簾がかかっている。

沖田は自分の頭上を特等席と定める相棒を全く気遣うことなく、暖簾に向かって一直線に突き進んだ。
自分も多少ダメージを受ける覚悟の攻撃。
しかし人間である沖田にとっては鬱陶しい程度のそれも、小さな妖精にとっては自分の拳よりも大きな塊に襲われるも同然。
もげっ、と不思議な悲鳴をあげて頭上を転がる感触に沖田から楽しそうな笑いが漏れる。
それを聞いたは腹いせにしっとりと輝く蜂蜜を一房握り抜けてしまえと引っ張った。











***









「おはようちゃん」


食堂に入ってきた沖田は頭上をふよふよ飛び回る妖精と格闘中。
しかし毎朝の光景の間に入って行こうという強者はいない。

数少ないの友人である山崎は今朝も自分より大きな、というより人間サイズの書類の束を抱え屯所の中を飛び回っていた。
視界のほとんどを白に覆われた中でも目敏くを見つける。

沖田とのじゃれあいが日課だということを今日もすっぱり忘れた山崎と、現在沖田と格闘中だったことをさっばり失念したは和やかに挨拶を交わす。

ふにゃっと気の抜けるようなの笑顔に山崎もへにゃっと笑う。


「あ、山崎おはふぎゃっ」

「うわぁ」


と、背後から弾かれたはまっすぐ山崎に向かって突っ込み、キリモミしながら落下していった。



結局、デコピンは免れることが出来なかった。











***









「キミはもっとあたしを丁寧に扱うべきだと思う」

「こんな大事にしてんじゃねェか」


朝食に向かう沖田には自分の仕打ちに不平を訴える。
食を必要としない妖精の分はない。


「どこがだよ。毎日怪我一つしない自分にびっくりだ」


しかしはつまようじ入れから一本引き出し、煮豆を一粒拝借する。
朝食を食べる本人より先に手と顔を餡でベタベタにしてつまみ食いを始めたに沖田は苦笑とともにおしぼりを近くにおいてやる。


「俺の相棒なんだからあんな程度で怪我なんかするわけねェだろ」


こんなに親切にしてやるのは世界広しといえど相棒であるだけだというのに。
構ってやらなきゃ自分から体を張ってちょっかいを出してくる癖に一体何が不満だというのだろうか。

近付いたおしぼりに気づいたは口をもぐもぐさせながらありがとーとくぐもったお礼を言った。


一粒で煮豆は飽きたはおしぼりに抱きつくようにして汚れた手を拭き、口を拭っている。
小さな体でいちいち動きが大きい。

ずっと納豆を練りながら観察していた沖田がこっちも食うか?と糸を引く豆を乗せて箸を近付けるといらないとすげなく断られた。

お盆の上、小皿の間を器用にすり抜け好物の一つである黄金色に輝く卵焼きを見つける。
食堂の卵焼きは好みの甘い卵だ。
やはり沖田の許可も取らず端の一切れにかぶりつく。
毎朝のことだから沖田も何も言わない。


その体の一体どこに収まるのか、不思議なほどの勢いで半分ほど食べたとき、幸せそうだったの瞳が鋭い光とともに細められる。

キュピーンと効果音が聞こえそうな変化の後、はお盆から飛び出すと懐から身長ほどもありそうなライフルを取り出した。

コンマ2秒で組み立て3秒目には湯呑みの陰にスタンバイ。



遙か向こう、食堂の反対側に座るのは相棒沖田の天敵にしての標的。

スコープを覗き、照準を合わせて引き金を引く。


ぱんっと爆竹を鳴らした様な音の直後、沖田の視線の先で白い何かが落下した。


煙とニコチンの供給が止まったことに異変を覚えた土方が視線を落とすと、フィルターの付け根から先がなくなっていた。
「ぅえ?え?」と間抜けな声を上げる土方。


その醜態を見届けるとはスコープから目を離し、納豆ご飯を頬張る相棒を見上げ、小さな拳に親指を立ててぐっと突き出す。


その得意そうな顔に沖田も箸を咥え、同じポーズで応える。



落ちたフィルターに小さな小さな弾痕を見つけた土方に追いかけ回されるのはその直後。







後書戯言
ものすごい楽しかった。
08.09.02
目次

Powered by FormMailer.