甘いケーキをあなたと





「ちわーっす、クリスマスケーキ20個お届けにあがりましたー」

「はーい!って、え!?ちゃん!?へ?ちょ、マジで?いやマジで?」

「あ、監察くん!門開けてください。そして手伝え」




12月26日夜。
真選組屯所は1日遅れのクリスマスムードに浮き足立っていた。
24日25日は浮かれた町内の警戒に借り出され、その打ち上げも兼ねた毎年恒例の宴会だ。

そこに現れたのは、こちらもクリスマスは書入れ時といってケーキ屋の売り子のバイトに励んでいた

たまたま門の側を通った山崎はその姿に慌てふためいている。

いつもは男物の着物を好んで着ているの今日の服装は、おそらくケーキ屋の衣装だろう。
膝上15センチはありそうなミニの赤いワンピース。
足元は黒のロングブーツ。
袖の無い腕には長い手袋。
ふわふわの黒髪を耳の下で2つに分けて括り、頭の上にはサンタ帽。

いたるところに白のファーをあしらった完璧なサンタ姿だ。


「それにしても凄い量だね・・・・・・こんなに誰が頼んだの?」

「ゴリ・・・じゃないや、局長さんですよ。一昨日バイト中通りかかって・・・・・・って隊長さん何してんの」

「いやぁ、いい足だなァと思って」

「素でセクハラは止めろ」

「こんなに足出して触ってくれって言ってるようなもんでさァ」


この格好は犯罪だ。
普段は絶対に見られない太ももや二の腕は想像以上に白くって、柔らかそうで。
相変わらず服装と髪形が違うだけなのに別人だ。

玄関で大量のケーキをカートから降ろしているの後ろに回り、その足に手を這わせると案の定不機嫌な声で牽制される。


「ちょ、邪魔すんな!」

「だって目の前にこんな触り心地良さそうなもんがあったら触るだろ。むしろ触らないなんて太ももへの冒涜でさァ。なあ山崎?」

「そうですねぇ」

「やらねーぞ」

「それはあたしの台詞だ。キミもどけ。手伝えとは言わないからせめてどけ」

「手伝うから触らせろ」

「いーーやーーーーだーーーーーー」




***




「「「「「「乾杯!!!」」」」」」


準備が整い、サンタのコスプレをした近藤さんの音頭に合わせ、キラキラした紙で出来た三角帽を頭に載せた隊士たちが乾杯する。

なかなかの異様な光景だ。

むさい男の集団の頭にキラキラした帽子。
俺の分も配られたが、首に食い込むゴムの感触が気持ち悪くて早々に打ち捨てた。

今夜は無礼講。

気の早い隊士は早くも芸を披露し始めたり、一気飲みならぬホールケーキ一気食い対決が始まったりしている。




「局長さん、ケーキどうぞ」


そんなむさい集団の中に響く女の声。
女と言っても、俺達より声が高く幼いだけで、飲み屋で言い寄ってくるような女供とは同じ生き物とは思えないようなヤツのものだけど。

そう、サンタコスのが気に入ったのか、それとも最初からそのつもりだったのか(多分後者だ)近藤さんに誘われたも何故か宴会に参加していた。


「おお!ちゃん気が利くなぁ。どれおじさんの膝に来なさい」

「おい近藤さんよぉ、セクハラで訴えられても俺は助けねーぞ。って乗るな小娘!」

「・・・・・・やきもち?」

「ちっげー!!」


切り分けたケーキを近藤さんに持って来たは誘われるままに近藤さんの膝に登った。

・・・・・・なぜ乗る?


「はい、局長さん。あーってして。あー」

「あーーん♡」

「こーむーすーめーーー」

「なんだよ副長さん。男のやきもちは見苦しいよ。食べさせたいのか?食べさせて欲しいのか?」

「誰がお前なんぞに食わせて貰いたがるか!」

「なら食わせたいのか?餌付けがしたいのか?」

「え、餌付けって何?まさかゴリじゃないよね?ちゃんまでそんな事言ったりしないよね?」

「ゴリラだ何て言いませんよ。局長は立派なねあんてるだーる人だと思ってますから!」

「それって褒めてる?褒めてるよね?なんかカッコいいし」

「近藤さん、騙されてるよ・・・・・・」


なぜか近藤さんには広い心で接する

俺なんか足触っただけで凄い拒否られたのに何で膝に乗ってんでィ。
大体ケーキだって近藤さんの分しか切り分けて行かなかったし。

俺の分はどこ行った?
普通持ってくるだろ?俺との仲だぜィ?


これだけ広い宴会場で、隊ごとの席にいた俺からは見えるし声も聞こえるけど会話は出来ない距離。


「あ、隊長。どこへ?」

「ああ、今日は部屋で飲みたい気分なんでさァ」


3人の会話を聞いているだけの状況に我慢が出来ず、でもあの場に入っていくのはなんとなく嫌で。
未開封の酒瓶を持って会場を後にした。





***




中庭に面した廊下で1人飲み始めてからどれくらいが経っただろう。
会場から聞こえてくる喧騒に収まる気配は見えない。
それどころか、さっきから一段と盛り上がっているような気がする。


はぁ・・・・・・何やってんだか。


何でこんな日に、俺は寂しく1人酒なんてしているんだろう?
それもこれも全部が悪いんでィ。


「あ、隊長さん発見!」

「!」


声に振り向くと、相変わらず男心をくすぐるサンタコスのがケーキを1ホール持って立っていた。


「なんか用ですかィ?」

「隊長さんケーキ食った?」

「ああ今はこっちがあるからいりやせん」


冷たくあしらってもどこ吹く風。
こちらの許可も取らず勝手に隣に座り込む。


「まあまあそう言わずに。せっかく届けたんだから食えよ」

「・・・・・・あっちはいいんですかィ?」

「あっち?」

「・・・・・・・・・・・近藤さんとか」

「ああ、いいんじゃね?なんか凄い事になってるけど。いやーお酒って怖いねぇ」


いらないと言っているのに隣でケーキを切り分けるをなんとなく眺める。
アップにされた後れ毛が月明かりに照らされたうなじが色っぽい。

あー舐めてーなーって何考えてんだ俺。

ん?アップにされた?


「それ、どうしたんでィ」


2つに結んでいたはず髪が、今はお団子にまとめられ一本のかんざしで留められている。

金の串に淡い桜色の水晶が付いたいかにも女の子らしい意匠のかんざし。
誰が選んだのか、なかなかの品だ。


「そうだ、これ!みんなでカンパしてくれたんだって?ありがと」


にっこりと嬉しそうに小首を傾げると、かんざしの飾りが しゃらん と澄んだ音をたてた。

そういえば12月に入った頃、山崎や比較的と仲のいい隊士達が食堂でそんな話をしていたかもしれない。
近藤さんや土方さんも出してて驚いた覚えがある。


「ああ、そのカンパ俺出してねェや」


だけど俺は参加していない。


「・・・・・・」


そう告げるとはにっこりとお礼を言った時の笑顔のまましばし固まり「チッ、お礼言って損した。返せバカ」と悪態を吐いてきた。





***





「あ、小皿忘れた」


切り分けたケーキを取る皿が無いことに気がついたは、俺のほうを向いて胡坐をかき、プレートの上から直接ケーキを食べ始めた。

かんざしの話は終わったらしい。


ー、パンツ見える」

「スパッツ履いてる」

「チッ」

「舌打ちすんな」

「さっきお前もやっただろィ」


「それ、似合ってまさァ」

「・・・・・・そりゃどうも」


黙々とケーキを貪るに、流れていったかんざしの話題を振ると、興味の無さそうな声が帰ってきた。
機嫌が悪いのかペースが早い。
もうすでに2切れ目に取り掛かっている。


「こりゃ、こっちはいらねェかな」


懐から簡素な紙包みを取り出すとそっけなかった態度が一変。
興味津々と言った目で手元を見つめてくる。


「何?」

「クリスマスプレゼント」

「くれるの?」

「でもそれがあるからいらないと思うぜィ」

「そんな事無いよ。貰うものは一個でも多い方が嬉しいもん」

「・・・・・・そうですかィ」


欲しい回答から微妙にずれた回答を流しながら包みを渡す。

包みの中身は町で見つけた組紐。
黒をベースに藍や水色に銀の糸を編みこんだ、落ち着いたデザイン。

中身を手に取ったはしばらくそれを無言で眺めた後、髪に挿したかんざしを抜き取った。
それを懐に仕舞いながら「これ、貰っていいの?」と上目遣いで覗き込んでくる。

・・・・・・その表情は犯罪だ。


「いいですぜ。つけてやるからこっち来な」


促され、俺に背中を向けて座ったの解いたばかりの髪を玩ぶ。
お団子にしていたからか、いつもよりウェーブがきつく付いているそれは差し込んだ俺の指に緩く絡まる。
いつもしているように、襟足の所で1つに纏めようとしたが、途中で思いなおし、上半分を取って頭の後ろで括る。
組紐の結び方なんて知らないから適当にちょうちょ結びにした後、相当紐が長い事に気が付いた。


「長ェな・・・・・・切るか?」

「ダメ!このままでいいよ」

「そうですかィ?」

「・・・・・・・半分いる?」

「俺につけろってか?」

「へへへー、このままでいいよー」


結んで、さらに背中の真ん中よりも長い紐を体の前に持ってきて指に絡ませ嬉しそうに笑う。


「似合う?」

「もちろんでさァ」


肩越しに振り返ると、下ろしたくせっ毛がふんわりと揺れる。
正直闇色を基調にした紐は髪と夜闇に隠れてはっきりと見えなかったが、きっと似合ってる。


「ありがとう」


にっこりと、さっきなんて非じゃない位華やかな笑顔に思わず見惚れてしまう。

あんまりそんな笑顔を向けるな。
自惚れてしまうじゃないか。


「お礼は?」

「?」

「お・れ・い。サンタさんは俺にプレゼントくれないんですかィ?」

「あ!!・・・・・・サンタさんはいい子にしかプレゼントあげません」

「俺いい子ですぜ?ちゃんとサンタさんにプレゼント用意したし」

「・・・・・・あーいやーそれは予想外と言うかまさか真選組がこんなにノリノリでクリスマス祝うなんて思ってなかったと言うか」

「用意して無ーんだな?」

「・・・・・・・・・・・ハイ」


ダラダラと冷や汗を垂らしながら必死で目をそらすに半眼で告げると、シュンとなって小さく「ごめんなさい」と呟いた。


「じゃあプレゼントはで」

「え、なにそれってそういう意味?」

「もちろんでさァ」

「いやーそれは出来ない相談ですぜ旦那」

「何キャラでィ?―――仕方無ーなァ・・・・・・じゃあケーキ食わせろィ」

「・・・・・・?それでいいのか?」


最初の要求から大分グレードが下がった事を訝しがりながらはフォークに手を伸ばす。
俺だってまさかいきなり「プレゼントはわ・た・し♡」なんてしてくれるとは思っていない。

・・・・・・それは誕生日にでも取っとくか。


、そっちじゃねーでさァ」

「ん?―――!?」


一口分を切り分け、まさに今俺に食わせようとした瞬間、その手を掴み引き寄せ口付ける。
不意打ちに油断していた唇から舌を滑り込ませ甘い口内を味わう。


本当に甘ェ・・・・・・


媚薬のような、麻薬のようなその甘さに、夢中になっていると息苦しさからか抱きしめた体が暴れだす。
それも無視して続けていると、やがて大人しくなり、こちらに体重を預けてくる。

気の済むまで味わった後、唇を離すと、頬を染め、瞳を潤ませこちらを睨みつけて来た。


「・・・・・・、誘ってる?」

「ばっか!ケーキ食えよ!この変態!!」

「だから食べさせて下せィ。口移しで」

「やだ!」

「ほらさっさと食え」


「いやだからお前が食え・・・ってそれ落ちたやつ―――んぅっ!?」














後書戯言
メリークリスマス!
と言う事で拙いものですがフリーとさせていただきます。
リンクは任意ですが、夏人作ということだけは明記してください。
配布期間 12月末日迄
2006.12.23

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