「そろそろサンタのおっさん出発した頃かなー」
青々とまぶしいほどに澄んだ青空に白い息をたなびかせ、呟かれた言葉に、沖田は耳を疑った。
「は?」
「だから、サンタさんだよ。そろそろもう出発してねーと24日に間にあわねーだろ?」
さも当たり前、といった様子で返ってくる言葉にどう返したものか、判断に迷う。
薄い雲を見上げ危なげなく隣を歩む少女、は見た目こそ幼く見えるとはいえその外見年齢すら無条件でクリスマスに暗躍する赤い服のおじさんを信じる年齢ではない。
「少子化が進んでるとはいえ世界中の子供たちに一晩でプレゼント配りまくるなんてすげーよな。どう考えても無理だと思うんだけどどうやってんだと思う?」
どうやってるも何も、そんなおっさんいねーよ、だなんて言える雰囲気ではない。
「―――あー・・・・・・え?なに、サンタ?」
「うん、サンタ」
「サンタがどうしたって?」
「・・・・・・サンタ知らねーの?」
「いや、それは知ってやす。赤い服着たメタボなおっさんだろ?」
「メタボじゃねーよ。サンタさんの腹には夢と希望が詰まってんだよ」
「・・・・・・(そんな夢と希望いやだ)」
見た目は幼くても、実質1人で探偵業を営み、自活しているは時に年に不相応なほど大人びてさえいるというのに。
そんなの不釣合いなほど子供らしい一面を目の当たりにし、沖田は戸惑い、対応に迷う。
「サンタってお前ェ、・・・・・・あれァお父さんですぜ?」
とりあえず、現実を告げることにした。
「は?何言ってんだ?」
厳しい現実を告げられ、の瞳が丸く開かれる。
「だから、サンタさんなんてーのは空想の産物で、実際は夜こっそり親がプレゼント枕元に置いてんでさァ」
「は?何言ってんだ?」
厳しすぎる現実に、言葉すら忘れたのだろうか。
意味が分からないといった様子で、は同じ言葉を繰り返すだけ。
(でもこれものためでさァ。そろそろ大人になる時期でィ)
心を鬼にし、夢見る少女を真実へと向き合わせる。
しかし、次の言葉に絶句する。
「んなわけねーだろ。だって父上亡くなってからもサンタさん来てたもん」
それはつまり、きっと育ての親がその役を引き継いでいたということで。
そりゃサンタの存在も信じてしまうだろう。
「・・・・・・まさか今もサンタさん来てんのかィ?」
「いや、江戸に来てからは来てくんなくなった」
「ほら「いい子じゃなくなっちゃったからな」・・・・・・」
ほれ見たことか、なんて言えない。
「――――――もし、今年、サンタにプレゼント貰えるなら、何がいい?」
気が付けば、そんな台詞が滑り出して。
サンタなどいないと力説していたヤツが何を言うのだと不思議に思いながら、は思考を巡らす。
しかし脳裏に浮かぶのは、新しい湯のみ(先日欠けてしまった)だとか、新しい敷布団(もういい加減煎餅布団になりつつある)だとか、ストレートヘアになれる評判のシャンプー(通販物)だとか、とても夢や希望があるとは言えないようなものばかりだった。
「そうだなー・・・・・・なんか、子供っぽいもん」
「なんだ、それ」
「なんか子供扱いされたい気分なんだ」
「よちよち、ちゃんあんよがじょーずですねィ」
「頭大丈夫か?」
+++
「総悟!大変だ!サンタのおっさんが来た!」
クリスマス。
相変わらず目もくらむような青空の下、輝かしいばかりに白い塊を抱えたは、町内を探し回って見つけた沖田に驚きの報告をした。
腕に抱えているのはの胴体ほどの大きさのあるステファンの人形。
ぬいぐるみなのに何故かしっとりとした手触りと、ビーズクッションが心地よい。
沖田は、自分には不気味さが勝ってしまう白い物体を嬉しそうに抱えるの姿に、しかし笑みが浮かぶ。
「よかったじゃねーですかィ。今年はいい子だったんですねィ」
「うん!ありがとう!」
真冬の晴天も驚きの笑顔。
思わず見惚れて、その意味に気づくのに遅れる。
(あ、ばれてら)