一日交換体験記




「「・・・・・・・・・・・・」」




沈黙。

それ以外一体どんな反応が出来ただろう。




「なんで俺がいるんでィ」


私の顔をした人物が、私の声で、しかし口調は憎たらしく話す。


「それはこっちの台詞だ」


それに返す声は聞きなれた、でも私のとは違うもので・・・・・・。



「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」








***








「お前ェ、だよな?」

「あたしはそのつもりだけど」

「俺には俺がそこに座ってる様に見えるんですがねィ」

「心配しなくてもあたしもあたしがそこに座ってる様に見える」

「なんでそんなに落ち着いてるんでィ」

「落ち着く以外どうしろってんだよ」


どうやら、認めたくないが、現状から推察するにあたしと沖田は中身が入れ替わってしまったらしい。
中身が入れ替わったのか、外見が入れ替わったのかは分からないがそれはきっと大した問題じゃない。


「・・・・・・いや問題だろ」

「何がでィ」


意外と突発的な事態に弱いらしい沖田が不機嫌に睨んでくる。


「だって外見が変化しただけならあくまでもベースは隊長さんだから基本的に何があっても良いけど、その体があたしのならもとの持ち主はあたしなんだから色々問題じゃね?」

「・・・・・・お前ェ、冷静に混乱すんのやめてくんね?」

「あは」


いやー、でも私の体が沖田の支配下(怖い表現だ)にあると思うと恐ろしいことこの上ない。
主に貞操の危機的なアレが。

幸い、頭が空な隊長さんは気づいていない―――といいな。



***



「心当たりは?」

「ねーよ」

「お前ェ、探偵だろィ?なんかこうパパッと推理してみせろよ。ジッちゃんになりかけて

「100歩譲ってもババァだろ、そこは。キミこそ警察だろ?善良な小市民が困ってんぞ。助けろ」

「いやァ―――はっはっはっ」


いつものあの人を喰った口調を、自分の声で、自分の顔でされるとムカつき度が違うのはどういうことだろう。


「・・・・・・まぁ、原因っつったらこれだろうな・・・・・・」


そう言って手を伸ばした先にあるのは食べかけの洋菓子。
しょーとぶれっど とか言う天人由来のお菓子らしいけど――――――


「やっぱ舶来モンは信用できねーな。極めつけは万事屋さんの横流しだからなぁ・・・・・・あの人がお菓子分けてくれるわけないんだよ。もっと早く気づくべきだったなー」

依頼の報酬をお裾分けと言って渡された包みには特に注意書きめいたものがあるわけでなく、何の変哲もないお菓子だった。

あの殺人的な不味さを除けば。

たまたま遊びに来ていた沖田にも1つ分けてやったのだが・・・・・・

一応食べ物の体裁をした犬の餌改め土方スペシャルでさえ文句を言いながら完食できる2人が一口口に含んだ瞬間吹き出した。
それほどまでに、食べ物として許せない味をしていたのだ。


「しっかし、こんな不味いお菓子があったなんて・・・・・・宇宙は広いな」

「アホですねィ。こりゃどう考えたってなんか盛られてらァ。しょーとぶれっどはこんな味じゃありやせん」

「食ったことあんのか?この裏切りモノー!」


舶来モノに手を出すなんて。
ていうか、私に隠れて!


「いや、意味わかんねェから。ま、どうせ今日は非番でさァ。ゆっくり万事屋の旦那ァとっちめにいこうぜィ」

「それしかねーよな。良かった〜、今日はジジさまのトコに顔出す日じゃなくて。こんなのバレたらまたチクチク言われちゃうよ」


ジジさまは基本的には温厚なジジィだけど、依頼以外で変な事件に巻き込まれるとちびりちびりとトゲを刺してくる。
基本的には気のいいじーさんなのだけど。
ジジィというカテゴリーに入っているだけのことはある。














「それにしても・・・・・・お前ェ胸絞めすぎ。きちィよ」

「ちょっ、おまっ、なにしようとしてやがる」

「いやァ、苦しいからコレ解こうと思って」


「やめてください」


着物の袷をがばっと開き、胸に巻いたサラシを解こうとするのを急いで止める。


「なんでィ。俺のカラダでさァ。好きにさせろィ」

「待って待ってあたしのだから!」

「つーかこんな押さえつけてたら形崩れるっつってんだろ。買ってやるからブラ着けろ」

「余計なお世話だ!」


勝手に人の胸をわしっと揉む手を掴み止めさせる。
私が揉まれてるわけじゃないけどなんか凄くイヤだ。

そんなに力を入れたわけではないのに、腕を引っ張った拍子に、沖田の(っていうか私の)体は勢い良くこちらの腕の中に飛び込んできた。


「いてェ」


不満げな声があがるが、私は沖田の体で抱いた自分の体の小ささに驚きそれどころではなかった。

折れそうに華奢な体。
でも二の腕や微かに触れる胸は柔らかく、ほんのり暖かい。


「おーい、ー?」

「いや・・・・・・あたしってちっちゃくね?」

「何を今更」

「あ〜でも総悟がいつもこうやってするの、わかるかも」


いつもされているように、ふわふわした髪に指を絡めて背中を撫でる。
自分ではあまり好きじゃない癖っ毛がなぜか気持ちいい。



対する沖田は気持ち悪いほど大人しい。










「・・・・・・、俺ァ自分にヤられるのはゴメンこうむりますぜ」

「・・・・・・いきなり何の話だ」


突然何を言い出すのやら。
不穏な言葉にぴきりと固まる。


「この体勢になって俺がその気にならねーわけがねェ」

「ほっほ〜ぅ?それは何か?キミはこの体勢になるといっつも頭の中はそういういかがわしい考えで一杯だって事か?」


そりゃ〜初耳だなぁ〜これからの対応を考えなおさねーとな〜 なんて7割がた本気でぼやくと腕の中の沖田が慌てて反論する。


「ばっか!わかってねーなァ・・・・・・お前ェ思ってる以上に抱き心地やわけェんだぞ。それを俺が一体どんだけ我慢してると思ってるんでィ。年頃の青少年の涙ぐましい努力をちったァ酌めよコノヤロー」

「いやそんな力説されても・・・・・・ていうか、あたしだって自分の体に突っ込みたくないやい」


考えてみれば(考えるまでも無く)すごい状況だ。
お互いが、お互いの姿をして、自分の体を抱きしめている。

私は常日頃沖田に抱きしめられたって安心することこそあれ、そんないかがわしい発想は微塵も浮かばないのだけど。


「男の人は難儀だねぇ」

「うっせー」


ふてくされた様子の沖田は、それでもこの体勢から逃れようとしない。
全体重を預けて、脱力しきっている。
なぜかちょうどいい位置に来ている隊服のスカーフに頬擦りをしていて――――――

(やっべー、何この生き物。マジカワイイんですけど―――って私じゃん!私の体だよ。外見めっちゃ私そのもの!何この気持ち!私自分カワイイとか思っちゃってんの!?それはマズイ。ていうか総悟!キミ私の体に入っているとはいえあくまでも沖田総悟だろ!?自分の体に擦り寄ってくるんじゃありません!そういや前に猫飼いたいって言ってたけどだからって自分がならなくったっていいっていうかこれキャラじゃなくね?)

もう頭の中は大混乱。
スカーフの感触を存分に満喫し、それに飽きたのか今度は隊服のボタンを弄ってみたり、布をなでて感触を楽しんでみたり――――――
ってこれ私がいつもしてることじゃん。


?」


黙り込んでしまった私を腕の中の見慣れた生き物が訝しげに見上げる。
どうやら沖田のポーカーフェイスは体に染み付いたもののようで、私の大混乱は表には出ていないようだ。
その代わり私の表情が読めないことに沖田が苛立ったのはすぐに分かった。

私ってこんなにわかりやすかったんだ・・・・・・

これでよく探偵なんてやってられるな、私。と思うほど、私を見上げる瞳は不満をあらわにしている。


「・・・・・・なんか、変な状況」

「何を今更。その不味ィ菓子食った時からずっとだろィ」

「うん、でも総悟、なんかおかしくない?」

「だからおかしいっつってらァ」

「そうじゃなくって―――体が、さ」

「げ。とうとうソノ気になっちまいやしたか。勘弁して下せィ。男の身でロストバージンはイヤでさァ」


いやいやいや、いい加減その話題から頭を離せよ。


そういう意味で言っているわけではないのだけれど。
上手く私の言いたいことが伝わらない。

ま、いっか。


「その話はもういいよ――――――けど」

「けど?」

「ちょっとキスはしたいかも」

「ちょっ―――」


有言実行。
有無を言わさず、触れるだけの口付けを交わす。
当たり前だけど、私が私で受けるキスとは感触が違って。

なんだか胸の辺りがキュンって苦しくなる。


「おい、―――ん」


沖田の制止の声を無視して今度は深く。
本当なら当たり前のようにそこにある口内の感触に、何も考えられなくなった。











***














「――――――戻った」

「戻ったな」


ぼんやりと頭にかかった霞が晴れると、目の前には見慣れた沖田の顔。
触り心地の良いスカーフと、くしゃくしゃにシワを付けてやりたい衝動に駆られる隊服。
しっかりと腰に回された手は意外と大きくて。


「・・・・・・まさかキスで?」

「べろちゅーだったからなァ」

「・・・・・・・・・・・・そんな安易な」


キスで戻るって一体どこの童話だ!
大体しょーとぶれっどに盛られたっぽい薬とかは!?


「ま、解決したんならいいや。離せ年頃の青少年。そして腰を撫でるな」

「まあまあ。今日は意外と美味しい体験しやしたからねィ。乳は自分の体で揉むからこそありがたみがある、とか」

「やめぃ!」


なんかいや〜な感じの笑顔を浮かべる沖田に危機を感じ急いで胸をガードする。
間一髪間に合い、盛大な舌打ちをされた。


「―――まあいいや。あとは」

「感想はもう結構です」

「キスは俺がしてェ・・・・・・・とか?」


そう言った沖田の瞳は男の人のそれで。
乳どうこうの話をしているときとは別人のようにカッコいい。




「・・・・・・また交換しちゃうかもよ?」

「そしたらまたちゅーすりゃいいだろィ」






後書戯言
みゆ様リクエスト「追伸ヒロインで総悟とヒロインが何らかあって中身 (精神?)が入れ替わるという感じでギャグ甘」でした。
ギャグって難しい・・・・・・。
ちゃんと中身入れ替わってるし、甘いんですけどっ!個人的にはギャグっぽいなとも思うんですけどっ!
どうもイマイチリクに添え切れていない気がしてなりません。
多分こういう感じのを望んでたんじゃないんだろうなぁ、と。

とりあえず、安易な交換の設定は置いておいて。初めは確か交換したままお互いの一日を経験するはずだったのですが、一話じゃ納まりきらなくなり、急遽2人だけで対処してもらいました。
中身は交換してるけど、体の反応は元のままっていう超自己満そして伝わりにくい設定。
でもこの設定で総悟視点も書きたいなーなんて思ったりして。

07.06.09