甘い甘い恋の理由
ぴんぽーん
ぴんぽーーん
ぴーんぽぽぽぽぽーーーーーー
「だーーーうっせェエエエ!金ならねーっつってんだろうがァアアア!!」
「うわーーーん!銀ちゃんのバカーーー!!折角遊びに来た彼女に何てことするんだこの万年無職がーーー!!!」
「ちょっ!!?悪ィてっきりババァかと――痛っ!痛い痛い痛い!首っ首っ!切れる擦り切れるからこれェェエエ」
場所は移って万事屋応接間。
えぐえぐとマジ泣きしていると、そのによって玄関の外にある手すりにゴリゴリと押し付けられた首をさする銀時が向かい合って座る。
「あー、ちゃん?」
「銀ちゃんのバカ!」
「悪かったって。つーかお前があんな押し方するからうちのぴんぽんやたら寿命が短いんだけど」
「私の所為じゃないもーん。ロン毛のヅラの人だって一杯押してるもん」
「いやいや、もんじゃねーから」
接客用ソファ(といっても大した物じゃない)の上で膝を抱え、は銀時と目も合わさない。
蹴り開けた扉が危うく激突しそうになったのだかその怒りももっともなのだが、仕返しにこちらは首を落とされかけたのだからお相子ではないか。
いささか腑に落ちないところはあるものの、折角尋ねてきてくれたカワイイ彼女の機嫌を直す事が先決だった。
「ほんとーに悪かった!なんか一個言うこと聞いてやるから機嫌直せよ」
「・・・・・・なんか投げやり」
「俺今すげーちゃんのお願い聞きたい気分だな!もう何なりとお申し付けくださいご主人様!」
もうやけっぱちである。
たとえうっかり扉の下敷きにしかかっても銀時はこの年下の彼女にベタ惚れだった。
惚れた弱みというヤツを体現しているそんな年上の彼氏をまだ涙の残る瞳で気味悪げに眺める。
温度差を感じざるを得ない銀時はこっそり心で涙した。
「玉子焼き」
「は?」
「玉子焼き作って」
「それがお願い?」
「うん」
「まっかせなさーい」
***
「うは〜〜、やっぱ銀ちゃんの玉子焼きは最高だわ〜〜」
「いや〜〜そんな美味そうに食ってくれると銀さんも作り甲斐あるわ〜〜」
「いやはや、お妙さんの焼けたかつては玉子だったものとは比べ物にならないね」
「ちょっと待て、お妙のと比べられてんの??」
聞き捨てならない台詞に思わず突っ込む。
は志村家の居候だった。
諸事情で家を失ったは居候の務めだと思っているのか、志村姉の恐ろしい料理を義理堅く平らげる。
あの記憶喪失さえ引き起こす恐ろしい兵器を――――――
「いやー、今日も中々スリリングな味だったよ」
「だから無理すんなって言ってんだろ?お前いつか体壊すぞ」
「だって折角お妙さんが作ってくれたんだもん」
「いやいや作ってくれたんだもんって・・・・・作ってくれちゃったんだもんだろ」
「同じじゃん」
「いや、大きな違いだよココは」
おもてなし精神は十二分にあるものの腕が全くついてこないどころか全速力で反対方向へ驀進しているお妙の料理は一向に上達しない。
もうあれは芸術の域だろう。
何を作っても同じ形の消し炭が出来上がり、その消し炭にも味のパターンがある。
毎日の崖っぷち食生活をある意味楽しんでいるは、しかしたまに、週に18回くらい銀時の料理が恋しくなる。
実際にありつけるのは月に数回あるか無いか。
万事屋には料理を作る材料がないというこれまた別の意味でスリリングな現象がこれまた頻繁に訪れるからだ。
「ああ、これ見ると玉子焼きって黄色いものだった事を思い出すよ」
「重症だな」
「すごいなー、何でこんなに甘いのに焦げないんだろう?」
「銀さんは何でも出来るんですよ〜」
「やっぱ持つべきものは料理の出来る彼氏だね。たとえ無職で、なんかいっつも同じ服着てて、頭がクルクルで、死んだ魚の顔してて「ちょっとちょっとちょっとちゃん!?さっきから一個一個が致命傷な傷がばっさばっさ付けられてるんですけどォオオオオ」
「ぅえ?」
甘い甘い玉子焼きを咀嚼しながら辛い辛い批評をし始めるに今度は銀時が泣きそうだった。
「クルクルは頭じゃなくて髪!死んだ魚は顔じゃなくて目だから!」
「服と職に関してはノーコメント?」
「そう思うなら最初から言わないで!つーか料理以外褒めるとこないわけ?」
「・・・・・・う〜〜〜〜ん。良かったね、銀ちゃん。料理できて」
「・・・・・・」
そんなに俺はダメダメだろうか?
え、俺と付き合ってるのは玉子焼き目当て?
いやそんなはずはない!と頭で分かっていても黄金色に輝く玉子焼きを頬張る真面目な横顔にむくむくと不安がもたげてくる。
不安というか不満が。
(あーカッコ悪ィなー俺)
こんな小娘の言葉一つ一つに一々引っかかる自分が滑稽だ。
の言葉はいつも妙なツボを突いてくる。
「銀ちゃん、甘いもの食べたらのど渇いた」
自分の発言が銀時を悩ませていることを、知ってか知らずか、最後の一切れを箸で挟みながらはにっこりと小首を傾げておねだりポーズをした。
***
ぶつぶつとなにやら呟きながら台所に向かう銀時の背中を見送り、は悪戯っぽく口角を上げる。
最後の一切れを唇で挟んでもてあそび、食べ物で遊んでると叱られる!と思い直してぱくっと一口で頬ばった。
全くなんて可愛いヒトなんだろう。
いつも保護者然として格好つけているくせにちょっとした言葉遊びに一々反応してくれるなんて。
「はーい、お茶ですよーって何ニヤけてんですかー妄想中ですかコノヤロー」
「ヤローじゃありませんー」
「妄想中は否定しないのかよ」
「うん」
***
「銀ちゃん」
「なんですかー」
彼女が遊びに来ているというのに、お茶を飲んだらさっさとソファに寝っ転がってジャンプを読み始めてしまったダメ彼氏。
今日が火曜だと言うことを忘れていた。
辛うじて返事をくれるのは昨日一通り目を通していたから。
これが月曜だったりしたら目も当てられない。
「ウソだよ」
「なにがー?」
「頭がクルクルでも魚顔でも同じ服しか持って無くても、料理がド下手でも大好きだよ?」
「やべー、キタわその台詞。もっかい言って!」
「彼女放ってジャンプ読んでるような男には言いません」