当たって砕けた


「はーい、そこの暴走自転車、止まりなせィ」



バイトに向かう為、かぶき通りを爆走中。
スッと横付けされたパトカーから、メガホンを向けられた。


冗談じゃない。
朝のバイトが長引いて、全力疾走で走っても間に合うか合わないかの瀬戸際なんだ。

チンピラ警官と遊んでる暇は無い。


声の主を横目に、ペダルを踏む足に力を込める。



「おーい、お前の事ですぜ、

「うっせー、メガホンで人の名前を呼び上げるな!」


パトカーとチャリのカーチェイスに通行人が振り向く。
あたしの悪名をかぶき町中に広めるつもりか?


ちゃーん、頑張ってー!」


いや、まあ、その。
今更広めるまでもなく有名人なんですけどね、あたし。
遊郭の窓から見下ろすお姉さんたちの声援に「ー」とドップラー効果を効かせて応じる。

ヤバい、本当に遅刻しそう。



ー、お前何キロ出てると思ってるんでィ」

「知らんよ、チャリにはメーターなんか付いてないもん!」

「60キロですぜ。車でもスピードオーバーでさァ」

「んなに出てる訳があるか!」

「こりゃ、切符切るしかありやせんね」

「免許なんか持ってねー!」

「ほー、無免ですかィ。こりゃ、余罪がたんまり付いていそうだなァ。とりあえず、――――――止まりなせェエエ


「んぎゃーーっ!!!」



う、撃ってきやがった!
チャリ相手にバズーカでっ!
間一髪、懐から取り出した扇で跳ね返す。
しかし、流し切れなかった衝撃にハンドルが取られた。


ドガシャ


金属がぶつかり合いへしゃげる音と共に、回り込んでいたパトカーに突っ込んだ。

あたしのマッハ号が・・・・・・。



「あーあー、パトカーこんなんにしちまって・・・・・・。器物破損に公務執行妨害でさァ」

「阿呆かァアア!!器物破損はお前の仕業だ!あたしのチャリどーしてくれんだよ!!」


あたしの足が・・・・・・。
まだギリギリ免許の取れない年のあたしの交通手段はこれしかなかったのにっ!

これから先バイトはどうすれば良いんだっ――――――ってバイト!?


「おい、腹黒警官今何時だ!?」

「俺は腹黒警官なんて名じゃありやせん」

「いいから、教えろ」

「総悟」

「お・き・た。教えやがれでございますわよ?」

「ははは、不思議な敬語つかいやすね」

「お・ま・え・はーーーっ」


のらりくらりと話を逸らせようとする沖田のスカーフをぎりぎりと捻りあげる。


こいつは人のいやがる事こそ嬉々としてやるというか、困ってる姿を見て喜んでいるというか、とにかく迷惑極まりない性格なんだ。

なんなんだ?
あたしが何かしましたか!?



「あ、あの、今午後3時10分です」


運転席に座っていた隊士が見兼ねて時間を教えてくれる。

さんじ じゅっぷん・・・・・・?


「ちーこーくぅぅう!!もー馬鹿ァアア!どーしてくれるんだよ!!」


「おい、勝手に教えるなよ」

「す、すみません。あんまり鬼気迫る様子だったのでつい・・・・・・」


聞けよクソ警官ども


「大丈夫でさァ。誠心誠意謝ればきっと許してくれまさァ」

「お前が言うな!時給良かったのにっ!ぜってー、許さねー」


ちょっと遠いけどっ、雇主がめちゃめちゃ時間に厳しい人だけどっ、時給は良かったんだっ。

絶対クビだ。

だって毎回時間ギリギリに来てた子、辞めさせられてたもん。
15分前行動が基本なんだもん。
今からパトカーで急行したって無理。
しかもあたし一度遅刻してるし。


「俺だって許さねェや。パトカー壊しやがって」

「パトカーがなんだってのよ!ちょっとドアがひしゃげただけじゃない。こっちはチャリ粉砕されてんだよ」

「チャリがなんでィ、えんじんも付いて無いあなろぐ機械の癖に。パトカー1台いくらすると思ってるんでィ」

「どうせ公費だろ。血税で賄うんだろ」

「給料から天引きでさァ」

「それだって元を質せば税金だろ。チャリ代とクビになったバイトの時給、きっちり責任取れよ!

「はっはっは、大胆でさァ」



「―――・・・・・・っ!?何を勘違いしとるかァアアア!!!!」

後書戯言
なんか色々ありえない(*´ェ`*)
何がおかしいって、時速60キロで爆走する涼夏さん。
総悟の運転手不憫。
06.08.25
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