「あら〜、真選組の皆さんよぉ!」 「本当!今日は土方さんもいらっしゃるわぁ!」 「きゃぁ!沖田さんも!」 入り口からキャイキャイと女の子たちの声が聞こえる。 あ〜、今日は真選組の皆さんが来たのか。 なら少しは楽かな。 ま、今日も指名入れてくれればだけど。 「は〜い、お妙ちゃん、 ちゃん、指名ね!」 「「は〜い」」 指名待ちの席で呼ばれ、横でお妙ちゃんがため息ついた。 「あ〜。今日もゴリラの相手か」 ダルそうに言ってるのを聞いてクスクス笑う。 「いいじゃない。楽しそうで」 「・・・楽しい?」 声音が変わったので慌てて手を振る。 「ち、違う違う。さ、ほらほら、行こう!?」 そう言って立ち上がる に皆がうらやましそうな声で叫ぶ。 「いいなあ、何で沖田さん、いつも なんだろう?」 ま、いつものことなんだけど。 「さぁ?楽だからじゃない?」 いつもの私の言葉に彼女達はいつも首を傾げる。 本当に分からないのね、沖田さんや土方さんも大変ね。 「いらっしゃい」 お妙ちゃんが嫌々そうに近藤さんと土方さんの間に座る。 私は土方さんと沖田さんの間。 周りから嫉妬に近い視線を感じるがこればっかりは仕事なんだからしょうがない。 文句あるなら横のサディストに言ってくれ。 「いらっしゃい、土方さん、沖田さん」 そういいつつ私はみんなの分のお酒を作る。 お妙ちゃんよりは私が後から入ったのだから当然の仕事さっ。 その間土方さんのタバコはよろしく。 「俺今日濃い目でいいかな?」 近藤さんの言葉に「俺も」と続けた土方さんに「はいはい」と作る。 今日は酔いたいような仕事でもあったのかもね。 「沖田さんは?」 カラカラと近藤さん、土方さんのお酒を混ぜながら聞くと沖田さんは 「俺ぁいつも通りでィ」とのこと。 相変わらずマイペースですね。 沖田さんの分とお妙ちゃん、私の分を作って「かんぱーい」!! いつもの宴が始まる。 最近近藤さんは土方さんと沖田さんと3人で来るようになった。 前は土方さんとばかりだったのに。ま、沖田さん未成年だからそれが普通だって。 「あ〜、 は楽でいいや」 ドサっと背もたれに背を深く預けた沖田さんを横目に一応メニューを確認しつつ 「そお?」と返す。 分かってるよ、本当は。 彼らは天下の真選組。 いくらヤクザとか言われてようと、彼らに気に入られればある意味玉の輿だろう。 それに、彼らは格好よすぎる。 土方さんはクールな眼差しに冷たい態度。 沖田さんも本当に隊長なのか?と聞きたくなる程整ったきれいな顔をしている。 更に真選組随一の腕とまで言われている人。 もてないわけが無い。 お妙ちゃんがいつもボコボコにしている近藤さんだって、男気あるし優しいし、 ストーカーさえなければ本当に逞しくってかっこいいんだ。 そんな3人にいつも指名される理由。 お妙ちゃんは言わずもがなで、皆ももう半ばそれが当然だと思っているけれど、 何で私なの?と思っている。 さっき、沖田さんが言ってたじゃない。 「楽だから」 それだけ。私もすごく楽だし楽しいし。 私はぶっちゃけ、玉の輿とか興味ないし、真選組だからどう、とか全然興味ない。 個人的にはこの3人は好き。 サバサバしていて変な誘いや下心なんて全然ないから。(あ、近藤さんは別かな) だからノンビリ会話をしてお酒を楽しむ彼らの席は本当に楽。 皆も変に騒ぎ立てたり色目使ったり詮索したりする女が苦手なんだと思う。 「そう言えば」 沖田さんが急に話し掛けてきた。 珍しい。 「え?」 聞き返すと彼はいつも通りの顔。 「お前なんでココで働いてるんでィ?」 「あれ?言ってなかったっけ?」 逆に聞き返してしまう。だって、もう何回来てるの、ココ。 「聞いてない。だいたいお前いつも人の話し聞いてるだけじゃねぇかィ」 ・・・そうか。 「あ〜、私、一人だから」 もう何回と聞かれたセリフ。 ついた席の中年のおっさんとか下心満載な男とかに。 「一人?」 首を傾げた沖田さんに笑う。 「そうだよ。私の親、12歳の時に攘夷が巻き起こしたテロに巻き込まれてね」 「・・・攘夷」 そう。貴方達の敵。 だけど別に誰に文句を言うつもりもない。 「でね、寺子屋の先生が見てくれてたんだけど18になったから一人立ちしたの」 「へェ。あんた、18なんかィ」 「・・・そんなことも言ってなかったっけ? あれ、じゃホントに何話してたんだろ? 「沖田さんも18だよね。お互い変なところで会ったね」 ここはお酒の席で。 二人していちゃいけないトコにいる。 しかも一人は、警察だし。 「ま、気にすんなィ」 人の過去を聞いておきながら相変わらずな沖田さんが笑える。 「本当、マイペースだよね、沖田さんって」 笑う私を横目で見ながら沖田さんは酒を一口飲んだ。 「あんた若そうなのに結構落ち着いてたから気になったんでィ。これで納得しやした」 そう言われてもピンと来ず、「よく分からないけど」と返す。 「こればっかりは性格じゃないかな?皆みたいにミーハーな『キャーッ』ってやつ、よく分からないし」 「だから呼んでんだろィ。ま、最初はそ〜だったけどな」 「え?」 ちょっとドキっとしてしまう。 どうせ彼の事だから大した意味があって言ってるわけじゃないだろうけどね。 と、ソコへ急にグラスが飛んできた。 話の途中からお妙ちゃんが暴れてたからいつか来るとは思ってたけど。 「わっ」と構えたとき、沖田さんが鞘ごと刀でそのグラスをなぎ払ってくれた。 少し離れた通路の方でパリーン!と割れて通路にいたボーイが「ぎゃー!」とか叫んでた。 「危ねェだろがィ!じゃれ合うのは構いやせんけど俺に被害つくるな」 それを何故か土方さんに言う沖田さん。 いつものことだ。 もし私に当たって割れたら沖田さんにも被害は行くもんね。 ・・・分かってるのにドキッとしてしまう自分に自己嫌悪。 あ〜、本当、最近の私って変。どうしちゃったんだろう? 「何で俺だよ!暴れてんのは近藤さんと暴力女だ!」 「あんたが抑えるためにソコにいんだろィ。それがあんたの存在価値でィ」 「何ソレ!俺そんな程度?」 あ〜、始まった。 長くなるんだよね、こ〜なったら。 ヤレヤレと一歩退いて近藤VSお妙ちゃん、土方さんVS沖田さんを眺める。 あ、スルメ食べたくなった。 「すみませ〜ん、スルメお願い」 「はいよ」 ボーイさんに勝手に頼んで先におつまみで頼んでたポッキーを食べる。 あ、私のお酒は無事。よかったよかった。 「あ、 ちゃん、指名だよ」 「え〜、私のスルメ・・・」 名残惜しそうにボーイさんを見つめると、ボーイさんは苦笑いして「あっちの席でも 頼んでもらえよ」なんて言ってる。 そうだけどさぁ。 「何でィ、 、違うトコ行くのか」 つまらなさそうな沖田さんに胸が痛くなるけど無視無視。 「そうだよ。指名だも〜ん。頑張ってね」 わざと楽しそうに言うと、不機嫌そうな顔をする沖田さん。 もう、色々痛いからやめてって。 「姐御は呼ばれないじゃないかィ」 そういわれてお妙さんを見やる。 ドガシャーーーン! うらぁ!ゴリラ死ねやぁ! ドーーーーーーン! 「・・・いや、ほら。いつも近藤さん来ると取り込み中になるじゃない?」 「ならお前も何か取り込めば?」 「何をさ」 意味の分からない事を言われ呆れていると「ま、ま」とボーイさんが入って来た。 「お客さんお待ちだからね? ちゃんはアッチ。沖田さん、すぐに戻しますから。 その間亜美ちゃん来ますからね」 そう言って女の子を入れる。 ・・・それがヤなんだよね、きっと。 亜美ちゃんもミーハーだからなぁ。 そう思いつつ席を離れる。 待つのはどうやらいつもの呉服屋の跡取りさん。 何故か気に入ってくれてるけど“あわよくば”がバレバレでやなんだよね。 ま、スルメ入れていただきましょう。 「遅い」 席に戻ると猛烈に恐ろしい沖田さん。 「う・・・だって、指示が」 「へぇ?俺のが先に指名入れてんのにかィ」 「で、でもさ?ほら、お客さん帰ったし、後はのんびり・・・」 「 ちゃん、お妙ちゃん、ご指名です」 「・・・行ってきます」 「・・・・・・」 お妙ちゃんが席を離れるとき、「あ〜〜〜!!!お妙さん〜!浮気しないでくれ〜」とか 騒いでいる近藤さんに一撃入れてから私の所に来た。 「・・・生きてる?近藤さん」 恐る恐る聞いても彼女は手をパンパンと払い「あれぐらいで死ぬなら楽なのに」とか言ってる。 いや、怖いですよ、姐さん。 「・・・あれ、次行く席って、あそこだよね」 「銀髪か。チッ。たいして金にならねぇ」 いや、人格変わってますよ。 そう、次に呼ばれたのは銀ちゃんの席だった。 銀ちゃんとは色んな縁で仲良くなったので、たまに遊びに来てくれる。 お妙ちゃんと私が呼ばれたのは今日は新八君もいるからだな。 「「いらっしゃいませ〜」」 座った瞬間、刀が飛んできた。 「「「「ぎゃ〜〜〜〜!!!!」」」」 ビィィンっと壁に刺さってしなるのは真剣。 今この店で真剣を手にしてるのは・・・。 恐る恐る店内の反対側の席を見てみる。 その反対側の席とココでは間に3席くらいあるけれど、泡吹いてる人もいる。 そして何やら投げた後の体勢でコチラを見ている・・・サド。 うっ、怖っ。 「い、今の沖田君?またあいつら来てやがったのか」 呆れたようなビビッたような銀ちゃんの声に苦笑いする。 「じゃ、いいよ、戻っておけ。あいつタチ悪いからな」 シッシッとやられてしぶしぶ立ち上がる。 そんな私のすぐ後ろに黒い影が立った。 「あれィ、旦那じゃねェか。もうコイツ、いいんで?」 言いながら壁にささった刀を抜いてそのまま肩にかけた。 怖い怖い怖い。怖いですって。 「あ、うん、いいよ。まな板女いるし。あ、でもまな板女が抜けた時は返してね」 ピクリと沖田さんの眉が上がる。 「“返す”?そりゃ困った相談だねィ。コイツは俺の防波堤なんでィ」 そう言いボーイさんを睨み付けながら私をひっぱる。 “防波堤” そう言った。 やっぱりな、と苦笑いしてしまう。 よかった。ちゃんと聞けた。 これで少しは気持ちが浮つくのを抑えられる。 ・・・私は男になんて頼らない。 ・・・自分ひとりでしっかり立って行く。 そう決めてたから。 まだ恋心にもなってない想いが膨らむ前で、よかった。 「沖田君、“防波堤”だってさ」 銀時が呟く言葉にお妙も新八もため息をついた。 「沖田さん、自覚ないんですかね?」 「・・・確かに ちゃんが戻ればヘルプの子居なくなってうるさくなくなるとは 思うけど、それだけなのかしらね?」 「真選組ってだけで大変そうですからね」 新八の言葉に興味なさそうに銀時は安めの酒を煽った。 「でもよ? が戻ってもお前のヘルプは居るじゃね〜か」 と、件の席を箸で指した。 そう、 が戻ったところで近藤の隣、更に近藤と土方の間には女の子がギャイギャイ 騒いでいる。土方も遠目で見ても五月蝿そうにしているのが目に見えて楽しい。 近藤がどこか嬉しそうなのは放って置いて。 「えぇ。二人連れ戻すなら分かるのだけどね」 良く見れば沖田もたまに話を振られて迷惑そうだし、間に居る は我関せずな雰囲気で スルメを食べてる。 「あれじゃ余り解決になってませんよね」 うんうんと頷く姉弟に銀時は「なぁ」と話しかける。 珍しく楽しそうな顔で。 「ちょっと・・・嵌めてみねぇ?」 「あらっ。楽しそうねぇ」 ニタリと悪魔の笑みを浮かべた二人を見て新八は今日来たことを後悔しつつ、 の無事を祈った。 漸く、念願の日を迎えた。 あれから二週間。 お妙はそろそろだと思って待っていた。 「いらっしゃいませ〜!」 「あら!沖田さん!今日は お休みなのよぉ?」 「土方さ〜ん!今日は私と飲みましょうよぉ」 来た来た。 ほくそ笑むお妙の顔が凶悪すぎて見た者は魂が抜けたという・・・。 「いらっしゃい」 とりあえず、とお妙だけ呼ばれた席。 ぶーたれている男が一人。 それをそ知らぬ顔で席に付くと、近藤が何か言う前に沖田が声を掛けてきた。 「姐御、 は?」 不機嫌です。 無表情ながらも全身で語る沖田の様子を見て、これで何故自覚がないんだろうと 皆で首を捻るところだ。 「 ね、今日風邪引いて熱出してしまったのですって」 そう、今は夏だけど は毎年この時期になると風邪を引くことをお妙は知っていた。 クーラーをケチる はいつも窓を全開にして寝るため、朝冷えするのだ。 だからいつもは注意しているのに今回は黙っていたのだった。 この日のために。 「・・・風邪」 拍子抜けしたような顔の沖田を見て何故か近藤が煽り出す。 「風邪かぁ。 ちゃん一人暮らしだろ?心細いだろうなぁ」 それにお妙も乗リ出す。 「そうなの。病気の時は心細くなってしまうもの。心配だからこの後顔を出そうと思っているの」 「風邪か・・・。アイツ薬とか持ってるのか?栄養ドリンクとかも持って行ってやれよ」 珍しく土方も を心配するような言葉を言いだした。 「えぇ、もう買ってあるの。あとは渡すだけなんだけど・・・」 「・・・・・・」 無言。ひたすら無言な沖田。 するとワザとらしくお妙が「あっ」と声を上げた。 「しまったわ。私この後約束があったの忘れてた・・・」 「それならこの私目が!」 手を挙げた近藤をいつものごとく殴り何事も無かったように話し出す。 「しょうがないわね。銀さんに頼みましょう。万事屋ですもの」 そう言いつつお酒を作るお妙に沖田が声を掛けた。 「・・・姐御、 の家、何処でィ?」 「え?どうして?」 分かっていて聞くお妙。笑顔が怖い。 「俺が行きやす」 土方と近藤も笑いたくなるのをひたすら耐えていた。 「いいの?寝てるかもしれないわよ」 「そしたらドアんトコに掛けて置きまさァ」 そう言って立ち上がった沖田にお妙は(わざと)慌てる。 「あら、もう行くの?」 「・・・“防波堤”いないココはつまんねぇんでィ」 「そう・・・じゃ、ちょっと待ってね」 そう言って入り口で待つように言い、お妙は席を立つ。 沖田は「先に帰りまさァ」とさっさと行ってしまった。 ブルブルと震える二人に気づくこともなく。 入り口に立つ沖田の下へお妙が風邪薬などが入ったビニール袋を渡しているのが見える。 早く。早く。早く行け。 そしてドアから沖田の姿が消えた途端、爆発が起こったかのような笑い声が店内を轟かせた。 近藤は兎も角土方も大笑いしているのだ。 みんな興味深そうに見ていた。 「あ〜。おっかしい。さすが銀さんね、あの人の名前を出したら一発ね」 涙を流しながら笑うお妙に目を奪われつつ近藤も笑が止まらない。 「ですよね!いつも銀時と指名合戦してますもんなぁ」 「総悟も何で自覚してないんだろうな?いつものアレだって絶対嫉妬だろ?」 土方の言葉に皆頷く。 「「「あ〜、おっかしぃ」」」 夜道を歩く沖田は何故か自分が焦っていることが不思議で仕方なかった。 は風邪だと言う。 ならばこんなに焦る必要も無い。 たかが風邪。 だけど・・・。 教えられた住所。それは自分も巡回したことがある場所なので見つけることは容易い場所だった。 漸く辿りついたアパートは何だかいかにも安アパートな雰囲気で、色んな意味で心配になってきた。 ・・・こんなところに一人で住んでいるのか? 世の中には強盗や強姦など家に居ても危険が一杯なのだ。 こんな場所に女一人で住んでいて大丈夫なのか? 指定された部屋の前に辿り着きいざチャイムを押そうと思っても・・・無い。 チャイムも無いのかィ。 呆れた気分で強めにゴンゴンっとドアを叩くと、いつもよりもやや弱い声音で「はぁい」と返事が来た。 「俺でィ」と答えると、室内の空気が一瞬止まった気配。 何でィ。そんな驚くことかィ。 「どどどどうして沖田さんが?」 どもりすぎだ。 ガチャっと隙間から顔を出した は頬が赤い。 チェーンはあるんだな。 それにしても、熱があるというのが一目で分かる顔つきだ。 「姐御が今日用があってねィ。代わりに持ってきてやったんでィ」 ガサッとビニール袋を上に上げると、「ありがとう」と言って戸口でそれを受け取った。 「・・・なんでィ。部屋に入れない気かィ」 「・・・は?」 不信そうな声にイラ立つ。 何に対してそんなにイライラするのか分からないが、このまま帰されるのはシャクだった。 「早く開けろィ」 問答無用な言い方に、渋々一度扉を閉めてチェーンを外している。 再度開けられた扉を自分で力いっぱい開くとフラフラした がよろけて沖田に倒れてきた。 トスンッと胸に当った軽さに、その熱になぜかドキッと一度胸が鳴った。 それに首を捻りながらも の肩を押して体制を整えてやる。 「フラフラすんなィ」 沖田の言葉に真っ赤な顔をした が苦笑いしながら「病人だって」と言ってそそくさと 部屋の中へ入って行ったのを何となく目で追っていた。 ・・・あんなに顔、赤かったか? ま、いいか。 「散らかってるからね」 中から声が聞こえたが、玄関を上がったままそのまま立ち尽くして部屋の中をキョロキョロと見渡してみる。 いわゆる1DKの間取りの普通のアパート。 玄関の前にトイレと風呂に続くであろう扉に反対側はキッチン。 まん前に扉があって、一応玄関あけてすぐ部屋、という事態は免れているらしい。 は直ぐそこの冷蔵庫を開けて覗き込んでいた。 「あ〜・・・麦茶とかしかないや。温かいのがいい?」 なんて聞いている。 「麦茶でいい」 そう言いながら勝手にガラリと扉を開ける様を は少し心配そうに見ていた。 散らかっているのか思いだしているんだろう。 扉を開けるとついさっきまで寝ていただろう布団一式に小さな机。 箪笥に押入れがあってこざっぱりとしている。と言うか、何も無い。 「・・・んでェ。つまんねェ」 「何がよ」 呆れた声音の が麦茶を運んできた。 「サンキュー。んじゃお前は寝てろィ」 ドカリと座った沖田に呆れたような顔。 「あんたが居たら寝れないじゃんよ、普通」 「何ででィ」 「・・・」 黙り込んで は布団に入らず沖田の反対側に座った。 沖田は不思議に思ったが別にいいかと勝手にテレビを点けた。 なぜか帰ろうとは思わなかった。 何だコレ。 何でこいつ、ココに居るの? フワフワする頭で座り続ける。 さっき、お妙ちゃんに頼まれてって言ってた。 それは分かる。 ありがたいことだ。 でも・・・そしたらコレ、どういう状況? 病人の家に上がりこんで、茶飲んでテレビ見てるよ。 何を言うでもない。 ・・・あ、めんどくさい。 いつも以上に頭が回らない状態の時にこの状況はキツイ。 放棄していいっすか。 あ、そうだ。さっき貰った袋の中に薬入ってたよね。熱さましだといいなぁ・・・。 カサカサと袋を開けると、解熱剤と総合風邪薬と栄養ドリンクが入っていた。 さっすがお妙ちゃん! いそいそと栄養ドリンクで薬を飲む。 口ン中マズイんで麦茶で流し込んだ。 少しは良くなりますように。 後は。 このテレビをボサッと見てるヤツは無視しよう。そうしよう。 横になろうと身体を起こした瞬間、クラリと眩暈がして慌てて机に手をついた。 ダンッ! 思った以上のデカイ音が響いたけれど構ってられない。 「・・・何でィ」 不機嫌そうな沖田さんの声も無視してクラクラする視界を堪えながら何とか布団に 横になった。 「・・・ごめん、無理っぽい〜。適当に帰っていいからね」 横になれたことで少し落ち着いて伝える。 「鍵はどーすんでィ」 言われて思い出した。 「あー、靴箱の上に乗ってるから、閉めたら新聞ポストに入れてくれる?」 「・・・分かりやした」 返答があったことで一気に意識を失いそう・・・になったのに。 「・・・何してんすか」 ぼやける視界を一生懸命開いて上を見上げる。 何で上かというと、何か乗ってるから。 「あ〜、熱どんだけあんのかと思ってねィ」 「・・・体温計でいいじゃないですか」 「何処にあるのか知りやせん」 「机に乗ってるって。ってか、今38.7度でした。だから寝かせて下さい、以上」 「・・・知ってやすかィ?風邪を治す方法」 「キスすりゃ治るとか在り来たりのコト言ったらもう口利きませんよ」 「・・・」 図星かよ。 「美味そうなんでさァ。喰わせろィ」 「Σアホか!そんな理由で喰われてたまるか!」 ズキン、と胸が痛む。 好きでも無いくせに。 どうせ私はただの“防波堤”のくせに。 ・・・私の気持ちなんて、分かってないくせに。 「・・・お前の気持ちなんて、聞いてないから知りやせん」 Σエスパー!? 「声・・・垂れ流れてるぜィ」 「・・・・・・」 やば。どこから。 ちょっと待ってよ。 今熱でグラグラしてるんだよ。これ以上・・・止めてよ。 「無理ですねェ」 「・・・また?」 「全部口に出てますぜィ。それよりも・・・お前の気持ちってやつ、聞かせろ」 聞かせろって。 無理。 「沖田さんにとって、私は“防波堤”なんだよね。だから沖田さんには関係ないし」 「それを決めるのは俺でィ。それにお前は“ただの防波堤”じゃねぇよ」 「え?」 「ただの防波堤なら誰でもいい。姐御一人いりゃコト足りるんだ。けど・・・」 ふっと私の頬に沖田さんの大きな手が触れた。 「“俺だけの防波堤”は・・・あんただけでいいんでィ」 「・・・あたし・・・?」 視界がフワフワしてる。 熱で耳がおかしくなってるんじゃないの? 「何でずっとあんただけ呼んでると思うんですかィ?俺達に興味ないのはお前 だけじゃないんでィ」 そう・・・そうよね。 あの子も・・・あの子も興味ないっていう子はいた。 だから。 席を離れるとき不安だった時もあった。 だから。 その度に、いつも以上に興味なさそうに・・・してた。 あの子たちよりも、私の方が楽だって、思って欲しくって。 つうっと涙が伝った。 よくわからない。 やっぱり熱で頭もおかしいみたい。 「あなた・・・沖田さんだよね?」 「はぁ?バカですかィ」 うん、やっぱ沖田さんだった。 そこまで頭は壊れてなかった。 「私の願望と妄想かと思って」 呟いた言葉に沖田さんがニヤリと笑った。 ・・・うん、視界がボケていても分かったよ。 「・・・アンタの願望?妄想?それは俺の良いように取っていいのかィ?」 沖田さんの言葉に何も考えずに頷く。 だって、私は気がついたら沖田さんのことを好きになっていた。 来てくれるのが嬉しかった。 私を指名してくれるのが嬉しかった。 ただの“防波堤”でも、店の中の話だけでも“特別”が嬉しかった。 私・・・私・・・あなたが・・・好き・・・。 「俺もでさァ」 その返事にあれ、私言ったっけ、とか思ったけれどもう思考は停止。 口に暖かい熱を感じる。 「ん・・・あ・・・ふぁ・・・」 甘くて熱い口付けに頭が更にクラクラする。 「好きでさァ・・・ 」 「・・・ココで寝るかねィ、普通」 呆れた声を出しても返ってくるのは寝息だけ。 イビキじゃなかっただけマシだろう。 「ま、結構熱ありやすしね、今日はカンベンしてやりやすかィ」 腕の中、眠る少女は確かに熱い。 「薬飲んでやしたね。じゃ、俺も寝やすか」 ゴロンと の横に寝る。 やっと手に入れた。 今まで何でコイツが隣にいて安心したのか。 どうして他の席に移ればイラついたのか。 やっと・・・分かった。 「もう・・・お前は俺専用の“防波堤”ですぜィ」 「いやだ!」 「何ででィ!」 「私は一人で頑張るの!誰の助けも借りないで頑張るって決めたの!」 「だからってもうこの店にいなくてもいいだろィ!」 「沖田さんだってまた来るんでしょ?ならいいじゃん」 「・・・お前が辞めたらもう来やせん」 「嘘でィ」 「マネすんな」 「それに!私のお城はあそこなの!引越しする金使うなら貯金する!」 「バカかィ!今のご時世どんだけ危険が溢れてるか知らねぇんかィ!」 「今まで無事に生きてきた!」 「だからなんでィ!災難は忘れた頃にやって来るんでィ!」 「・・・なぁ、あれって営業妨害じゃねぇの?」 「痴話喧嘩は犬も食わねぇってな。最近来るたびにアレだぜ」 銀時の言葉に土方が疲れたように返す。 「何でも が辞めるまで説得するって毎日来てるわよ」 お妙の言葉に銀時は笑う。 「なら寧ろ営業に貢献してるのか」 「そうね。付き添いでゴリラもマヨラも来るし。いい金づるよ」 「・・・それは も込みでか」 「うふふ」 「・・・俺は来たくないんだが」 「マヨラ呼ばわりはいいのか。・・・ま、多串君はそれが運命だから」 「・・・・・・ハァ」 「でも。それももうきっと終わりよ?」 「「え?」」 「あぁぁぁ!分かった!なら俺が一緒に住む!」 「は?」 「引越したくねぇんだろィ!」 「何言ってんの!?あんた屯所は!?」 「お前が悪いんだからな!お前が屯所で働けば問題ねぇんだよ!」 「だからって何で私が女中よ!」 「ココよりマシでィ!大体屯所なら今と変わらねえ給料で家賃も光熱費もタダ。何が問題なんでィ!」 「問題って!・・・ん?家賃、光熱費タダ?」 「へ?そうでィ。知らなかったのか?」 「だって・・・お妙ちゃんが『屯所は悪魔の住みかで安い給料のくせに家賃も光熱費も払う』って・・・」 ジロリと二人で振り向く。 「あら、もうバレてしまったのね?うふふ・・・。何か問題あって?」 認めた!しかも開き直ってる! 「「・・・いえ、何も」」 数日後、「すまいる」から の名は消え、真選組の屯所に新たな住み込みの女中が入ったそうな。 |
<あとがき>
夏人様、先日は当サイトへ相互リンクしていただき、誠にありがとうございました!
感謝の意を込めまして総悟の御礼小説を(勝手に)書かせていただいたのですが・・・。
異常に長い上に意味不明な小説になってしまいました・・・すみませんっ!
もしよかったら貰っていただけたら光栄です。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
花乃