チャリで通学路を走っていると、歩道にうちの制服を着た女子生徒を見つけた。
アイツだ。
休日に制服でうろつくなんて補習か部活しかない。
それにしても同じ方向だったとは。
このまま行くと追いついてしまう。
シカトして通り過ぎるか。
(でもさっきシカトすんなって自分で言ったばかりだ)
声を掛けるべきか。
(でもなんて言えばいいんだ)
考えているうちにもどんどんの背中は迫ってくる。
チャリの気配に気が付いたのか、は振り向きもせずに歩道の脇によった。
「後ろ、乗っていきやすかィ?」
気が付いたら、彼女の隣でチャリを止め、一段高くなった歩道に足を乗せ、そう声を掛けていた。
突然話しかけられたは、目を丸くして俺とチャリを見比べている。
「家、こっちなんだろ?」
「うん・・・・・・でも・・・・・・」
「なら乗ってきなせィ。それとも人の親切を台無しにするんですかィ?」
普段の俺を知っているヤツが見たら何と思うだろう。
いつもなら遅刻寸前で全力疾走しているヤツ等をあざ笑うように追い越して行くのに。
「私、立ち乗り出来ないから」
「あー・・・・・・そうかィ・・・・・・」
予想外だった。
確かに俺のチャリには後部座席なんて気の効いたものは付いていない。
しかし車輪を止める金具に足をかけ、運転者の肩に手を乗せるだけの事が出来ないヤツがいるなんて・・・・・・。
「バランス感覚とか運動神経とか―――無いから」
「そりゃ不便だねィ―――よっと」
チャリを降り、間にそれを挟んで並ぶと再びは目を見開いた。
そのまま走り去ると思ったのだろう。
俺だって自分の行動が意外だ。
「ほら、置いてきやすぜ〜」
「・・・・・・置いてけばいいんじゃ?」
「一緒に帰りやしょうって言ってるんでさァ」
「はあ・・・・・・?」
歩き出しても、会話なんてあるわけも無く。ちらっと隣を盗み見ると、は相変わらず無関心で。隣を歩く俺のことなんて全く気に掛けていない様子でまっすぐ前を向いて歩いている。
「さん?」
「はい?」
試しに声を掛けてみると、すぐに返事が返り、かえって面食らう。
「・・・・・・えーっと・・・・・・学校来たの、この連休が初めてですかィ?」
「いいえ―――土日には結構・・・・・・あと平日にも2〜3回来てるけど?」
その割には見たことが無い。
・・・・・・ああ、俺がサボった日か?
「ふ〜ん。ところで、付き合ってるヤツとかいるんですかィ?」
「・・・・・・なんで敬語?」
「まあまあ、癖みたいなもんでさ」
「へー。別にいないけど」
ちょっとずつ、こちらに興味を持ち始めたようで聞かれたことに答えるだけだった会話に色が付く。
「好きなヤツとかは?」
「別に」
短い一言に、不覚にも胸が躍った。
ああ、もう降参だ。
これはもう誤魔化しようが無いじゃないか。
「じゃあ俺と付き合ってみやせんか?」
「――――――え?」
会ったばかりの女。
無愛想だし、俺には無関心だし、チャリの二人乗りも出来ないような運動音痴。さらに極めつけに不登校と来た。
「さん、俺と付き合ってくだせィ」