連休が終わり、通常授業が始まった。
朝のHRの後、教室後方の席に目をやると、今までと変わらず1つの空席があった。
もしかしたら来てるかもしれないとほんの少しだけ期待していたらしい俺は軽くショックを受け、携帯を取り出した。
To:
Sub:沖田
1限始まりますぜ。早く来なせィ。
◇◇◇
あの日、俺の衝動的な告白に彼女はあっさり頷いた。
「私、3日前までキミの事知らなかったんだけど」と前置いて。
それに「俺も知りやせんでした」と返し、まずは携帯のアドレスと番号を交換した。
そしてすぐにの家に着いてしまい、ほとんど話せないまま別れた。
間に挟んだ土日、一度もメールも電話もなかった。
俺は何を送ればいいか分からなかったし、俺が分からないんだからきっと彼女はもっと分からなかっただろう。電話は・・・・・・なんとなく、彼女とは顔を合わせて話したいという思いが強くてかけることは無かった。
(ヤベー、俺ホントのことしか考えてねェ)
思考の中ではすでに名前呼び。
だけどまだ名前を呼ぶ程話してもいない。
今送ったのが初めてのメールだ。記念すべき第1号があんな内容だなんて。
彼女は来るだろうか?
なんで来ないのだろう?
1時間目。
さすがにメールを貰ってすぐに準備をしても間に合わないだろう。
2時間目。
まだ来ない。
そしてメールの返信も無い。
来る、来ないはいいから、せめてメールの返事くらいは欲しいものだ。
3時間目。
銀八の授業だ。
他の教師と違っていつも遅れてやって来るからチャイムが鳴った後でも教室の中は騒がしい。
もう一度送ってみようか。
しかしあんまりしつこいのもどうだろう。そこまでして来る程のものでもないし。
パカパカと携帯を開けたり閉めたりしていると、ガラっと教室の引き戸が開く音がした。当然前の戸が開くと思っていたが、音は教室の後方から聞こえて来た。続いて訪れた訝しげな静寂に、はっと後ろを振り向くと、朝からずっと待ち続けた彼女の姿があった。
クラス中の視線を集めても怯むこと無く、つかつかと自分の席に向かう。
机に鞄を置き、一瞬教室を見回したと目が合う。
「―――あ」
「はーい、席着いてー。ったくお前らよォ、もういい加減小学生じゃないんだからチャイムがなったら席に着いとけっ―――ってじゃん!なになに、今ごろ登校ですかァ?ちょっとずりィじゃねーか。羨ましい」
人がせっかく声をかけようとした瞬間、今度は前の扉が開き、やる気と誠意に欠ける声とともに銀八が教室に入って来る。
「先生!あれ誰アルか?転入生アルか?」
「ちげーよ、てめぇクラスメイトの顔くらい覚えとけ」
「だって今日まで見た事無かったネ!私皆勤賞ヨ」
「お前はタコさんウィンナーに夢中だっただからだろ」
「先生!俺も初めて見ました!」
「お前はヅラがズレて前が見えて無かったんだろ」
「ヅラじゃありません」
「先生!「だー!!もーうっせーなぁ。―――せっかくだ。今日の授業はLHRにして自己紹介大会でもすっか」
に気付いていなかったのは俺だけでは無かった。
次々上がる不審の声に、とうとう銀八は授業放棄を宣言した。
みんなこれを狙っていたんだろう。
「じゃあ、主役―――・・・・・・おーいちゃーん。お前の話してんだからマイペースに読書タイムを始めるのやめてくんない?てか俺の授業聞く気無いよね?」