「お前ェの母さん、へ・・・いや・・・・・・変わってんな」
「・・・・・・うん」
「お前ェもなァ」
「え?」
おばさんが出かけると、急に家に静寂が訪れた。
時計の針の音と、紅茶をすする音、そして外を通る車の音が妙に大きく聞こえる。
「普通、客放っておいていきなり風呂に直行しやすかィ?」
「・・・・・・だって、気持ち悪いんだもん」
「え?」
「・・・・・・学校とか、行った後は、なんか体が薄汚れてる気がする」
「・・・・・・そりゃ、重症ですねィ」
「そう?」
「まあ、少なくとも俺は気になりやせんがねィ」
「ふーん―――あ、クッキー食べる?昨日焼いた」
「・・・・・・いただきやす」
彼女が焼いたというクッキーは、彼女の母親が淹れてくれた紅茶に良くあった。
「ねえ、沖田、くん?」
「総悟」
「は?」
「総悟でさァ。」
「・・・・・・名前」
「だから、総悟って呼んで下せィ。俺もって呼びやすから」
「・・・・・・なんで」
「いいじゃねェか。付き合ってんだから」
「・・・・・・そう、それ。どうして私なんかに告白したの?」
「はい?・・・・・・だってOKしたじゃねェか」
「うーん・・・・・・冗談、というか気まぐれだと思った」
至極真面目な顔で告げられた言葉に頬が引きつる。確かに、出会ってほんの数日で、好きだと自覚した直後の告白だ。一時の衝動だと言われてもおかしくない。
だが―――
「好きって、言いやせんでしたか?」
「・・・・・・言われて、ない?」
「・・・・・・あー、確かに」
思い返してみて、そういえば「付き合ってくれ」とは言ったけど「好きだ」とは言っていない気がする。
「どうして、告白したの?」
あっさりその告白を受けたくせに、今更不思議そうに首をかしげる。
「気になったんでさァ」
「私が?」
「色々知りたいと思った。なんか面白い予感がしたんでさ」
「それは、好意ではなくてただの知的好奇心」
「・・・・・・そうかもしれませんねィ」
ホントの所、愛だの恋だの好いた惚れたの話は分からない。コイビトというものもが初めてじゃないし、付き合ってる男女がやらかすであろうことはほとんど済ませている。
「好き」と「嫌い」の違いなら分かる。
「好き」と「なんとも思っていない」の違いも分かる。
ならに向かうこの感情の名は?
嫌いじゃない。
なんとも思っていなくない。
たった1週間、実質4日。毎日会えるか気になって、会ったら会ったでモヤモヤと何かがつっかえた様な気持ちになって、不完全燃焼を起こしていた。
俺はコレが「好き」だから、「気になっている」からだと思ったけど。ただの知的好奇心だと指摘されて、否定する術は持っていなかった。
「なら、別れますかィ?」
思ってもいない言葉が口を吐く。別れるなんて毛頭ない。
主体性の乏しいなら、どっちでもいいと言って頷きそうだが。
だが、不安に反しては首を横に振る。
「私は、総悟のことまだ好きじゃないし、何も知らない。でも興味はあるよ」
「へえ?」
「総悟のメールは無視できなかった。今日は全然学校行く気なんて無かったのに。これってすごいことだよ」
「・・・・・・そいつァすげーや」
ホントに基準がすごい。