「ちゃんの友達がおうちに来るなんて何年振りかしら〜」
うきうきと、だがよく聞くと不穏な台詞を言いながらお茶の用意が進められる。
肝心のは2階に上がったまま。
「もしかしたら初めてかもしれないわね〜」
不穏な独り言は続く。
「あの、おばさん?」
「はーい?」
「・・・は」
「ちゃんならすぐ来るわよ〜――――――ほら」
おばさんの言葉の通り、ドタバタと荒々しい足音がしたかと思うとなにやら布の塊を抱えたが脇目も振らずにリビングに入り、一直線に別の扉の向うへと消えていった。
「・・・・・・?」
「ほらね?」
「・・・・・・何、してんですかィ?」
「シャワー浴びるのよ〜。あの子きれい好きだから」
「綺麗好きって・・・・・・こんな時間に?」
まだ昼休みが終わって1時間ほど経ったばかり。風呂は朝か夜か、他に運動でもした後だと思っていたのだが。
不思議な気分での消えた扉を眺めていると、いい香りをさせたカップが目の前に置かれる。華奢な白いティーカップ。
次いで、俺の向かいの席には少し大きめのやはり白いマグカップ。中身は俺のとは違う、ミルクティーのようだった。
「総悟くんもミルクティーの方がよかったかしら?」
「いえ、いただきます」
ざばざばと、遠くで水の音がする。
それをBGMに、カップを傾けながらどうして俺は今ではなく「の母親」とお茶を飲んでいるとう状況をぼんやりと考える。
付き合ってまだ数日。本人ともほとんど交流を持ててないと言うのに、なぜ俺はいきなり彼女の親と対面してるのだろう。
(早く出て来いっての)
出てきてくれたからといって、が何かの役に立つとは思えない。
だけど、少なくとも、この意味不明な面子での空間は解消されるはずだ。
***
しばらくもしないうちに、風呂上りの湯気と共にが戻ってきた。
短パンにTシャツというラフな格好に、濡れた髪をアップに止めた無防備な姿。この女は仮にも彼氏を家に上げているという自覚はないのだろうか。
無言で俺の前に座ると、程よく冷めているであろうマグカップを呷る。コクコクと半分ほど飲み干して、ようやく俺を視界に入れた―――
「・・・・・・あ」
「あ?」
「・・・・・・・・・・・・」
視界にいれ、口を開き、何か言葉を発しようとしてそのまま固まってしまった。
「ちゃーん、ママお買い物行ってくるわね〜」
「っぁ―――」
「総悟くん、お夕飯食べて行くわよね?」
「・・・・・・え?」
「いえ、そんな―――」
「今日はあの子も来るし、腕によりをかけなくっちゃ!」
「ちょっと、母さん!」
「じゃあね、ちゃん。いい子でお留守番してるのよ〜」