「元いた所に戻して来い」
そう言い放った土方さんは正に鬼の副長以外何者でもなかった。
その言葉に、片手に抱えた雨に濡れて温かな温もりがビクリと震える。
それを抱き直しがてらあやして宥め、どう言いくるめたものかと思考を巡らせる。
「犬猫じゃねェんですぜ。あんた鬼ですかィ」
抱えた温もりは紛れもなく、人間の子供。
それを捨て犬のように扱うなんて。
「犬猫じゃねーんだからむやみに拾ってくんな」
「何も手当たり次第拾ってきたわけじゃありやせんぜ?1週間ずっと同じ所にいたから保護したんでさァ」
「は・・・・・・?」
屯所の廊下で繰り広げられる口論に、子供の体がきゅっと縮こまる。
血の気の薄い頬に、青ざめた唇。
一週間。
俺がこの子の存在に気付いてから一週間。
日に日にぼんやりとしていく存在感に、とうとう見ぬ振りができなくなってしまったのだ。
「つーわけで今日からこいつここで育てるんで」
「なにがつーわけで、だ。どういう訳だ。何も情報増えてねーよ」
「そこどいてくだせィよ。これから近藤さんのとこにいくんでさァ」
「だぁから、まずここで説明してけって言ってんだよ。そんな得体の知れないモン屯所に持ち込むんじゃねーよ」
「―――ぅ」
土方の人を人と思わない言葉を理解したのか、子供が小さく呻いた。
大人しく襟を掴んでいた手を離し、小さなてのひらで俺の胸から遠ざかろうともがく。
その頭を押さえつけて、落ち着かせるように背中を撫でてやる。
土方に反対されたくらいで引き下がるような生半可な決意でこいつを連れて帰ったわけじゃない。
「近藤さんに説明するんで一緒に聞きゃいいじゃねェですか。俺ァ二度も同じ説明すんのはごめんでさァ」
近藤さんさえ賛成してくれれば、こいつはどうとでもなる。