「で、お前ェの名前は?」
近藤土方真選組のツートップをなんとか説き伏せ、今夜から屯所で面倒を見ることになった少女に、いまさらながら名を問う。少女というにもまだ幼い顔には強張った、無表情とも泣き顔とも取れない表情が張り付いて、一文字に引き結ばれた唇はとても音など発しそうにはなかった。
「な・ま・え。言葉はわかるよな?もしかして口利けねェとか?」
「・・・・・・ぅ」
「お?」
根気よく問い続けると、子供はようやく小さな声らしきものを発した。
だけど名前を教えてくれるまでには至らない。
「名乗らねェなら勝手につけちまうぞ。サド丸―――確か59号だったか、ん?アイツが59だっけ?そしたら60号・・・・・・いや、60号も確かいたな。アレ?そういやこないだ71号の墓作ったような」
「・・・・・・」
「ん?区切りよく100号ってことにしやすかィ?さすがに人間の名前付けんのは初めてだからなァ―――」
「!」
聞こえるように名前の候補を挙げていると、ようやく少女が名前らしきものを名乗った。。幼い頃から使いまわし続けている歴代ペットの名前はお気に召さなかったらしい。子供らしく張り上げた声は、キンっと甲高かったが、不快ではない。
「、な」
勢いで名乗ってしまったことを悔やんでいるのか、せっかく開いた唇は今度はへの字に結ばれてしまった。
「俺ァ総悟でさァ」
せっかく教えてやっているのに相変わらず下唇で富士山を描いているのあごを持ち上げ無理やりこちらを向かせ、視線を合わせる。
「そ・う・ご。言ってみろィ」
「・・・・・・そ、ご?」
「そ。今日からの兄ちゃんでさァ」
小さく紡がれた二文字に、ひとまず許してやり、今度は現状の説明に入る。
小さな子供に、今日からここが家だと理解させるのだ。
「あにうえ?」
「兄上って呼んでもいいですぜ?」
「、あにうえ、いないもっ」
ようやく会話をしてくれる気になったらしいの言葉は舌っ足らずだが、きちんと俺の言うことを理解し、さらに自分のこともある程度分かっているようだった。
「兄ちゃんいらねェ?」
「いらないもっ」
「・・・・・・ま、なんでもいいでさァ。今日からここがの家でィ」
妹ができました。