晋助様がそのガキを連れてきたのは、たったひとりの女に鬼兵隊が壊滅的な打撃を受けたその直後だった。
動力を潰されただの箱と化した船。船員もボロボロ。
その両方が回復するまで、身動きが取れない。
ふらりと行方をくらませていた晋助様は、荷物のように担いできたそれを下手な荷物なんかよりも乱暴投げ捨てる。
悲鳴はあがらなかったけど、小さく息を詰める音がした。ゴロゴロと2回転床を転がったそれは、一瞬後信じられないようなバネを使って晋助様に飛びかかっていた。
見慣れぬ武器は鉄扇だろう。小さな体に不釣り合いな扇を操り晋助様の間合いなど関係無いとばかりに懐に飛び込む。
直後、先ほど投げ捨てられたのなど比ではない勢いで小柄な体が吹っ飛んだ。
ダメージは決して小さくないはず。
それなのに、その小さな塊はすぐに跳ね起き、隙あらば飛びかかろうと力をためている。
第一印象は『薄汚れたガキ』だった。泥と血にまみれ、元の肌色など分からない。成長期の子供特有の動くだけで折れそうな細長い手足。落ちくぼんだ眼だけがギラリと光り、痛いほどの殺気を発している。
「どうした?俺を殺してみろよ」
挑発的に言う晋助様の声にはいつになく楽しそうな響きがあった。
暴れるガキを押さえつけて風呂場に連れて行くき、染みるであろう傷口もお構いなしに頭から湯を浴びせても、ガキは一言も発さない。
汚れが落ちると刺すような殺伐とした印象がなりを潜め、こちらを睨む視線も殺気より戸惑いが勝っている。ふっくらと触り心地の良さそうな子供らしい頬は、自称フェミニストなロリコンのストライクゾーンど真ん中を強速180キロで射抜いていた。
幹部3人で晋助様を問いただすと、あのガキは斉賀公、つまり鬼兵隊を壊滅状態に追い込んだ女の手の者だと事も無げに明かした。
そんな危険分子を生かしておく理由など無い。
「晋助様は何考えてるっスか!あの女の弟子なんて危険すぎるっス!」
「確かに・・・・・・子供を斬るのは気が進まぬでござるが」
「いまさら何言ってるっスか!人斬りの名が泣くっスよ!」
「まあまあ、お二方。あの年頃の娘は後4、5年したら「キモイっス武市変態」」
「確かに殺してしまうには惜しい逸材」
「河上先輩まで!?」
「そうでしょう。あの年齢であの輝「しかし晋助の意図が見えないでござる」」
「ちょっと私のセリフに被せるのは止めてくだ「そうっスよ!晋助様はロリコンじゃないっス。絶対違うっス」」
「いい加減にしろよこのイノシシ娘」
晋助様があのガキを連れてきた理由は分からない。
だけど女だからとか子供だからとか、そんな武市変態の様な理由では絶対に無い。