目を覚ますと、見慣れない天井。
情けない
気が遠くなりそうな殺気に当てられ、体が動かなかった。
まだ震えが残っている気がする。
ずるいと思う
大人と子供という絶対的なハンデに加え、相手は攘夷戦争経験者。現役バリバリの攘夷浪士。命のやりとりが仕事かも知れない。
確かに私は人を殺したことどころか、動物だって蛇や魚、鳥が限界だ。
だからってこんなのずるい
私から師匠を奪っておいて、どうしてあの男が生きている
あの男は簡単に師匠の体を刻んだのに、なぜ私の刃は届かない
ずるい
許容できない理不尽さに、ただ膝を抱えてうずくまるしかできない。
「ああ、起きたでござるか」
突然聞こえた見知らぬ男の声。
だけど現れたのは見覚えのある人物。
私があの男に挑んでいるとき、いつもどこかで見ている人だ。
「どこか痛むところはないでござるか」
痛いトコ?
そんなのいっぱいある
ここに来てから頭も胸もお腹も全部痛い
無言のまま首を横に振る。
「それは何より」
変な言葉
「おぬし、腹は空かぬでござるか?」
お話の中でお侍さんが使っていた言葉だ。
だけど挿し絵にあった姿とは似ても似つかない。
「いらない」
一歩。一歩。
片手にお盆を載せて、近づいてくる。
ずりずりと後退するも、狭い寝台の上ではあっという間に行き止まり。
「とりあえず、これで腹をならすでござるよ」
ふんわり上る甘い香り。
無骨な湯飲みになみなみと注がれた甘酒の香り。
頑なに食事を拒否していたのに、手が勝手に伸びてしまった。
じんわりと温かい熱が指先からたどって心臓まで伝わる。
不意に、甲板で囁かれた言葉が聞こえた気がした。
「貴様は殺さねェ。貴様に殺されもしねェ。せいぜい足掻くんだなァ、クソガキ」
いつの間にか、視界が霞んでいた。
甘いであろう甘酒に、ぽたぽたとしょっぱい波紋が広がる。
ずるいじゃないか
私には、生きることも死ぬことも出来ない。