次にあったのは土方。
「―――っておい!無視すんな!」
「ん?ああ、いたんですかィ。俺ァてっきりこの間俺がバズーカ当てた焦げ跡かと」
「ぁあ!?あ、おま、あの時の始末書まだ出てねぇぞ。今日中に出さねぇと切腹させんぞコラ」
「何言ってんでィ。あれは避けた土方さんがいけないんですぜ?俺ァちゃんと照準合わせてやした」
「なんでお前がそんなに自信満々なのか俺には理解できねぇ」
「土方ごときの器じゃ俺は測り切れねェって―――ん?どうしたィ?」
くいっくいっと、かすかにスカーフが引かれる。
全然探すつもりのなかった土方の出現で、ついいつものように口論を始めてしまっていた。
放って置かれたのささやかな抗議だ。
「これは覚えなくていいですぜ。せっかくの若い脳細胞がヤニで汚れまさァ」
「ぅ?」
「人を汚染源みたいに言うな」
「はっきりくっきり汚染源じゃねェですか。コイツの前でタバコ吸ったりしたらアンタ頭から井戸に放りこみやすぜ」
「うるせェよ。そっちこそそのガキ近づけんじゃねーぞ」
「―――ぅー」
「うわっ、ひどっ!大の大人がこんなちっこいのになんて事言うんでィ。マジ死ねよ土方」
「お前ェがガキ抱いてなんて事言ってんだよ」
「―――ん?大丈夫ですぜィ。これに会ったらとりあえず『死ね』って言っておけばいなくなりまさァ。ところで土方さん、山崎見てやせんか?」
「なんか今俺はお前にそのガキ任せることに猛烈に不安を覚えている。その流れで俺に質問できる神経が理解できん」
「まったく。理解力のないお人でさァ。コイツの世話頼みたいんで顔覚えさせようと思いやして」
屯所に置くにあたって、近藤さんを攻略できたなら、次に抱きこむべきは山崎だ。日々の世話はもちろん、日用品の買出しやらを押し付けるのにはもってこいの人材。
「山崎なら仕事だ。誰かさんと違ってな」
「ホント、真面目に働けよな土方コノヤロー」
「お前に言ったつもりなんだけど!?」
山崎は不在。
それなら道すがらばったり会ったら一番隊の連中くらいは紹介しておこうか、と考えながら何やらわめいている土方さんの前を後にする。
そろそろ直接台所に向かおうか。
抱いているは特に重くはないが、俺としては何も珍しくない屯所の中を練り歩くのがダルイ。
それに探検とは自分で歩き回って発見するのが楽しいのだ。多分。などと自己完結し、探検を終了させると、顎の下から視線を感じた。
視線を向けると、じっとビー玉みたいに真っ黒に澄んだ目が俺を見上げていた。
そして何かを訴えかけるような無表情。
「あー・・・・・・大丈夫でさァ、別にお前ェの世話丸投げしようなんて考えてやせん」
あてずっぽうで思いあたる節を口にするとぱちり、と瞬きが1つ返ってきた。
当たっていたのかどうかは、不明。
「お。大福発見ー。大福好きだろ。とりあえずこれでつなごうぜィ」
共用棚の中には小皿に乗った豆大福が1つ、どうぞ食べてくださいといわんばかりに鎮座していた。もちろん俺のではないが、腹を空かせた子供のためだ。いたし方がない。子供は大福が好きなものだ。
「――――――いたぁきます」
小さな口の周りを真っ白にしながら、誰かの大福を頬張る姿に、子供の面倒はちょっと大変かもしれないと思った。