初めの印象
「申し訳ありません、ただ今大変混雑しておりますので相席でよろしいですか?」
そいつと会ったのは週に一度の糖分の日。
「ん? ああ、いいですよー」
「ありがとうございます」
「おいおい、俺に承諾はなしですか?」
「ご注文はお決まりですか?」
「あ、すいません。もう少し待ってください」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
「すいませーん、シカトですかコノヤロウ」
行きつけの でにいず に行くと妙に小奇麗な顔の男と同席させられた。案内してくれた店員はどうやらこういった顔が好みらしく、客の俺が全く眼中に無い。
まあ、この坊主も客だが。
ったく、なんて店だ。
いや、でもパフェ類はここが一番充実してるんだよなー。
しっかし、本当に綺麗な顔をしている男がいたもんだなぁ。藍色と黒の袴姿の少年は、年は神楽と同じくらいか、少し上だろう。長い髪は無造作に縛っているが、・・・・・・ヅラの例があるからな。
真剣にメニューを見つめる瞳に、長いまつげの影が落ちる。
・・・・・・・・・・・こいつ、本当に男か? 可愛すぎるだろう。
それにしても、真剣に悩んでいるようで、2ページに及ぶデザートのページを何度も捲り、目が忙しなく行ったり来たりしている。
「もしもし、お兄さん?」
「・・・・・・・・・・・」
「もしもーし、キミまでシカトですかー。銀さん泣いちゃうよー?」
「ん? ・・・・・・何ですか?忙しいんですけど」
チラッと、一瞬目を上げるが、すぐにメニューに戻す。発せられた声は高くも無く、低くも無く、これくらいの少年なら有りかなと思えた。
「注文呼びたいんですけどー、さっきから何を悩んでんだ?」
「んーーー。抹茶デラックスパフェと季節のフルーツスペシャル。どっちにしよー。やっぱ日本人として抹茶は欠かせないよなー。いや、でもフルーツも捨て難い・・・・・・うわっ、何この桃、マジ美味そう。あ、イチゴも乗ってるよ。あーでも抹茶と餡子・・・・・・うーわーー、マジ悩む。どうしよう――――――よし! あ、兄ちゃんお姉さん呼んで」
怒涛の独り言を垂れ流し、ようやく注文が決まったらしい。
促されるまま通りがかりのウェイトレスを呼び止める。
「お待たせいたしました。ご注文承ります」
「チョコレートパフェ1つ」
「えっと、抹茶デラックスパフェと季節のフルーツスペシャルとクリーム白玉あんみつ。この順番で持ってきて」
ええぇぇええ!?決まったっていうか、両方っていうか、増えてんじゃん!
糖尿寸前の銀さんの前でそれは無いんじゃないのか、少年よ。
「ん? 何すか?」
「お前、今の全部1人で食うのか?」
「へ?当然でしょ。あたし1人だもん」
「いやいや、あのねキミ。世の中には健康のために糖分を控えなきゃいけない大人がいるっていうのに――――――って『あたし』!? お前女!?」
神楽並(いや、あの娘には負けるが)の注文にすっかり大食漢の甘党男だと思っていたところに、予想外の一人称に驚いた。
いや、しかし「あたし」という男がいてもおかしくは、無い、はずだ。
「ほえ?男だ何て一言も言ってませんけど。ていうかアナタ誰」
「いやいやいや、じゃあなんでそんな少年のような格好してるの!ていうか名前を聞くときはまず自分から名乗りなさい!」
「どんな格好をしようとあたしの自由です。 あ、名前特に興味ありませんから結構です」
「坂田銀時です!よろしく!」
そっけない態度に、反射的に名乗りを上げ、名刺を差し出していた。少年、いや少女は嫌そうにそれを受け取る。
「万事屋・・・・・・?なんでも屋さんか」
「コラコラ、そっちも名乗りな「お待たせいたしました」
「あ、ありがとうございます―――あれ?お茶は頼んでませんよ?」
「こちらサービスで付けさせていただきました」
「マジっすか!? ありがとーお姉さん!」
「ちょっとちょっとォォ、ここチェーン店でしょ!?そんなサービス銀さん受けた事ないよ!?ちょっと美少年顔だからって贔屓は「ではごゆっくりどうぞ」
「ありがとー」
「くっそー、なんなんだここの店員は。俺にはオマケなしかよ」
「大人気ないよ、万事屋さん」
「あ?なんだ、なよっちぃ面でお姉さん達たぶらかして。ていうかお前名乗れコノヤロウ」
「何怒ってんだ?お茶欲しかったの?仕方がないなぁ、お茶はあげないけどメロン1切れならあげてもいいよ?」
「名 を 名 乗 れ」
「」
「・・・・・・やっぱり女・・・か?」
「別に無理に女だとか納得しなくていいよ。ていうかアイス溶けてんぞ」
と名乗った少女は微妙に棘のある声でさっさと食べるように促す。ちなみにアイスは溶けて無い。そんなハイスピードで溶けてたまるか。
***
しばらく、2人無言のままパフェのグラスを突付く。
俺の3倍頼んだ少女は俺が食べ終わった時、まだ2品目に入ったところだった。
俺が大事に大事に1つのパフェを食べたというのに。
しかし、女だと分かったからではないが、見れば見るほど可愛い顔立ちだ。格好も相まって中性的ではあるが、なにより、所作が可愛らしい。神楽の飯を貪り食ってる姿なんぞ見るに耐えないがこの子、の食べる姿は本当においしそうで見ていて微笑ましい。
「なんですか。視線がうざいんだけど」
「ちゃん、苗字は?」
「」
「どこに住んでんの?」
「ナンパお断り」
「あれ、もしかしなくても銀さん嫌われてる?」
「―――キミ、商売敵なんだよ」
「は?」
フルーツパフェの底からマンゴーと思しき黄色い物体を堀り出しながら無愛想に言われる。
「因みに、ご職業は?」
「フリーター」
「・・・・・・銀さん、関係ないよね」
「本業は探偵」
「探偵!!??」
「そ、だから商売敵。食い終わったんならさっさとどっか行け」
「いや、ちょっと待って。え?探偵?キミ1人で?」
「そうだよ。何か文句ある?」
「いや、文句は無いけど。流行ってんの?」
「流行ってねーよ。だからバイトで食いつないでんの。万事屋ってお登勢さんとこの上だろ?うちは看板なんて出してないし、名刺も無いからな。バイトなんて雇う余裕もないしましてやペットなんてとてもとても」
うわー、何この子。ストーカーですか?
「探偵だっつーの。声に出てんぞ」
「・・・・・・ちゃん、女の子なんだからさぁ」
「だから? 女の子は綺麗なべべ着てかんざし挿してしゃなりしゃなりと歩きなさいなんて3世代前のじじいの様なことを言うつもりですか? この方が動きやすいし何かと便利なんだよ」
「便利・・・・・・あー、今みたいにおまけしてもらえるもんねー」
「あーそうですね。くやしいかコノヤロー」
可愛い顔でこの可愛くない物言い。
だけど不思議と憎めない。
なんか、あれだ。生意気な妹がいたらこんな感じだ。
「フーン。・・・・・・お前おもしれーな。よし!何か困った事があったらいつでも万事屋銀ちゃんの所に来い!いや、何も無くても遊びに来い!!」
「は? 商売敵だって言ってんじゃん」
「甘いな、未成年。物事には専門分野があるんだよ。同じ町内に似たような仕事があれば住み分けが必要だろ?その辺も含めて、な」
8割方適当だが。このまま、はいお別れとするにはこの娘、面白すぎる。
男装の少女。可愛らしい声と可愛らしくない物言い。小さな身体に見合わない、食欲。味覚は俺と気が合いそうだが。
全てがアンバランスな少女。
「ふーん。―――ま、気が向いたら、な」