甘い香りに誘われる
「やっぱりパフェはクリームが命だと思うんですよ」
「抹茶白玉デラックスなんて邪道なモン食ってるヤツに言われてもなあ」
運命の相席以来、俺とはぱふぇ仲間になった。
この間の大量注文は何かの発作みたいなものらしく、今日は普通に1品だけ注文していた。
「やっぱパフェはチョコだろ」
俺の注文はいつもどおりチョコレートパフェ。
「いやいやいや、チョコを否定する訳じゃないけどさ、なんつーかお約束過ぎというか定番っていうか甘いだけっていうかさ」
「糖分目当てで食ってるんだから甘くて問題ないでしょーが」
「この抹茶を代表とする和菓子のほろ苦さと甘〜いクリームの素敵なコラボレーションにこそ心が踊るんじゃないか」
「ちゃん、相変わらず渋いご趣味ですこと」
「なに、万事屋さんは抹茶嫌い?」
「万事屋さんじゃありません。銀さんです」
「いい歳してお抹茶の良さが分からないなんて、キミはそれでも日本人ですか?江戸っ子ですか?」
「ていうかシカトですか?銀さんの名前はスルーですか?」
出会って以来どれくらい経っただろう。
は頑なに【名前】を呼ぼうとしない。
別に俺は元来そんなに呼び名にこだわる性質ではないが、どうしてだかコイツに関しては無性に名前を呼ばせたくなる。
「うーん・・・・・・でにぃずだとやっぱり抹茶や黒蜜の味が落ちちゃうよねー。満月堂さんパフェ始めないかなぁ」
俺の抗議は無視し、一方的なパフェ談義は続く。何やら思案しながらも、パフェを口に運ぶ様子は本当に幸せそうで、見ていて俺まで嬉しくなる。
って、どんな純情少年デスカ。大丈夫か、俺。
ちなみに満月堂というのはのお気に入りの甘味処その1だ。
ついでに言えば、満月堂の主人は和菓子一筋の頑固物だ。パフェに手を出すなんて8月に雪が降ってもありえない
「どれ、銀さんも抹茶と黒蜜の味を確かめさせて見なさい」
「ダ・メ。自分の分はくれない癖に」
「そんなセコイことする訳無いでしょ。大人を信じなさい」
「チョコレートパフェ必死でガードしてる大人なんか信じられるか!」
「ーー、・・・・・・って旦那も一緒ですかィ」
互いのパフェグラスを長いスプーンで狙い合っていると、突然を呼ぶ声が。
黒い制服に身を包んだ真選組のサディスティック王子。
相席している俺に気が付いた瞬間、面白いように声のトーンが落ちた。
「何してるんでィ、。とうとう生活苦から援交でも始めやしたか?」
「わざわざケンカ売りに現れたのか?この暇人」
「イエ、見回り中見るからにいかがわしい2人を見つけたんでねィ」
「いかがわしさなら真選組の存在の方が上だよ」
「誰がいかがわしい存在だ、コラ」
うわー、王子だけじゃなくって多串君まで登場ですか。ちゃんと仕事してるのか?真選組は。
「君達のことだよ、多串くん。ホント善良な市民はよく見てるね」
「バカかお前ェ、援交は犯罪だ。一体いくら払ったんだ?」
「だから援交なんかじゃねぇっつーの。嫌だねー、これだから汚い大人は。瞳孔開きすぎて視力落ちてんじゃないの?どう見たって相思相愛のラブラブカップルじゃない。これからパフェ交換するんだから邪魔しないでよ」
「だーれが相思相愛ですか。ラブラブカップルですか」
「相思相愛でしょ」
「あたしはパフェと相思相愛だよ」
俺の軽口はあっさり切り捨てられる。俺よりパフェか、コノヤロウ。って野郎じゃないか。
「やーい、振られてやんのー」
「多串君キミ友達いないでしょ」
「誰が多串君だ」
「友達云々に突っ込みは無しか?」
「・・・・・・交換?」
「するわけないだろ―――って、ああ!!!」
多串君をからかっていると、さっきの俺の発言を真に受けたのか、いきなり沖田がのパフェグラスを取り上げた。中身は半分ほど残っている。
そしてそのグラスをぐいっと煽った。
―――って、何やってんのォォオ!?
ゴキュッ ゴキュッ と男らしく喉を鳴らしてパフェを飲み込む。
ショックで目を見開くの顔が面白いことになっている。
ぷはぁ と最後の一滴までを飲み干し、グラスをテーブルに置く。一連の動作を表情の無い瞳で追った後、グラスがテーブルに触れる カタン という音がした瞬間、は沖田に殴りかかっていた。
「貴様ーーーっ!このクサレ公務員がっ!どういう了見だ、コノヤロー!!原稿用紙10文字で答えやがれ!!」
「オイ、原稿用紙10文字ってなんだ?」
「喉 が 渇 い て た ん で さ ァ」
「パフェは飲み物じゃありません!」
多串君のツッコミは誰にも拾われること無く、漢字小文字含め10文字ぴったりで沖田が答えると怒り心頭のは真選組の隊服のスカーフを掴み、キリキリとねじりあげる。
「ぐえぇぇぇえ、ちゃん、苦しいでさァ。なんか色々出そうでさァ」
「出せ!戻せ!!今すぐ元通り復元しろ!あたしのパフェェェェ!!!!」
「あー、ちゃん。戻されても食えたもんじゃないから」
「じゃあ、万事屋!キサマが弁償しろ!戻せ!マリック呼んでこい!」
「ちょっとちょっとォオ、多串くん。キミの部下のお陰でボクのちゃんがぶち切れちゃったじゃないデスカ。責任取ってよね」
「総悟のしでかしたコトに一々責任なんか取ってらんねぇよ。ありゃあ、じゃれてるんだろ?」
「いやいやいや、少なくともはマジ切れだろ」
「おや、。口に抹茶アイスが付いてますぜ」
「うえ?」
ぺろっ
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「ごちそーさん」
「こっんのーーーっ、セクハラ警官っ!お前なんか、お前なんかっ・・・・・・
一生隊長やってればいいんだァアアァァア!!」
の口元に付いたアイスを無造作に舐め取る沖田。思わず引きつる俺と土方。
たっぷりと溜めたあと店内に響き渡る様な負け惜しみを叫び、出口から飛び出していった。
「一生隊長」発言を受けてか、の反応がSの気性を刺激してしまったのか、沖田の笑顔が邪悪極まりなかった。
「いやー、は可愛いなぁ」
「お宅、部下の教育真面目にした方がいいよ、いやマジでさ」
「いや、もう手遅れだろう・・・・・・俺ァもう諦めたよ」
「おめぇが諦めちゃってどうするワケ?ていうかちゃんの分の支払いはどうするワケ?」
「ってそっちかよ!」