情熱的な出会いと別れ

 出会いはいつも突然。


「沖田隊長、なんか揉め事みたいっす」


 明け方。夜勤の市中見回りの帰り道、運転を任せていた部下が報告した。


「なんでィ。見なかった振りしてさっさと戻れィ」


 こんな時間の揉め事なんざ、どうせ酔っ払い同士のいざこざ程度だろう。
 俺はアイマスクをしたまま、眠りの体勢を崩さない。
 夜勤明けは眠いんでィ。


「はっ。しかし、囲まれているのは明らかに小さな少年ですよ」

「少年だァ?ったく、どこの不良だ。こんな時間にほっつき歩きやがって」


 未成年とあっては、放置するわけにはいかない。
 俺は渋々アイマスクを外し、パトカーから出た。

 ――――――そして、目を奪われた。

 少年?確かに格好は男のそれだが、・・・・・・あれ、女だろう?
 男物の袴を身にまとい、少し癖のある髪を襟足で無造作に束ね軽やかに飛び回る。ちらっと見えた顔は綺麗に整っていて、確かに一見美少年。
 自分でも、なぜ一目で女だと気が付けたのか分からないが、確信があった。


「隊長!ちょっと、寝ぼけてるんですか?早く止めないと」

「いや、ちょっと待ちなせィ。坊主の方が押してらァ」


 俺より年下だろう。小柄な身体でゴツイ男――天人だ――5人を1人で相手している。
 少年―――いや、少女の後ろには仕事帰りなのだろう、綺麗に着飾った女がオロオロと立ちすくんでいる。


「とりあえずあのお姉さんを保護でさァ」

「はい!」


 部下が横からお姉さんにたどり着いた時、気合と共に少女は頭2つ分はでかいであろうオラウータン顔の親分の頭部に上段回し蹴りを見舞った。


「はぁああっ!  てやっ!!」


 軽い地響きと共に最後の天人が地面に倒れ、少女はその横に軽やかに着地した。


「よっと――――ん?」


 ぱちぱちと拍手を送る俺に少女は訝しげに眉をひそめる。
 近くで見るとやっぱりすげー美人だった。


「いやー、お見事でさァ。―――あ、お前こいつら確保してそのお姉さんから話聞いておいてくだせィ」

「へっ、ちょ、隊長?」


 戸惑う隊員は放って、少女と向き合う。


「でも未成年がこんな時間に出歩くのはいただけませんぜ」

「もう朝ですけど」

「まだ明け方でさァ。新聞配達じゃあるめーし」

「あ、じゃあそれで」

「じゃあって何だィ。しかも天人こんなぶちのめしちまって。お前ナニモンでィ?」

「何ですか。あたしが何かしましたかー。ていうかキミ達見てただけ?いたいけな一般市民がこんな毛深い異星人に絡まれているのに。ちゃんと働けよ、公務員。税金返せコノヤロー」

「・・・・・・・・・・・・」


 整った顔、涼やかな声で放たれたのは怒涛のような辛らつな言葉。
 いい性格してるじゃねーかィ。


「お前名前は?」

「キミが先に名乗れよ。礼儀だろ」

「沖田総悟でさァ」

「ふーん」

「名乗れよ」

「豊田川 光丸」


 いや、偽名だろ。それ。


「何人混ぜたんですかィ・・・・・・そんな名前の女がいてたまるか」

「っ!? へー、女だって分かったんだ」

「さっき『あたし』って言ってやしたぜ。それにどう見たって女にしか見えねィ」

「ふーん。キミ、面白いね。・・・・・・あたし。―――じゃあね、ちゃんと仕事しろよ!」


 にっこりと笑い、生意気にそう言うと身を翻して走り去っていった。

 、ね。
 おもしれェ。




***



 翌日から、俺は少しだけ真面目に市中見回りをするようになった。
 どこかにあの子、がいるかも知れない。

 そして案の定、再会はすぐに訪れた。


っの、子供相手に、んなもん向けるんじゃねェェェェ!!!


 土方さんとの見回りの最中突然聞こえてきた聞き覚えのある声。


「アァ?何の騒ぎだ?」

「ああ、多分俺の知り合いでさァ。土方さんは先に戻っててくだせィ。俺ァ、ちょっくら行って見物して来やす」

「は?おい、総悟。待てコラ―――」


 なんだか文句のありそうな土方さんは捨てておいて、俺は声のしたほうへ駆け出した。

 騒ぎの元はすぐに見つかった。
 やはり中心は
 先日と同じように、また柄の悪そうな天人に囲まれて立ち回りを披露している。
 ただ、今日背中に庇っているのは10歳くらいの少年だ。


「テメーの星じゃ、子供とお年寄りには優しくしろって教わらねーのか、この異星人が!」


 口悪く罵りながら、ウルトラマンと仮面ライダーの中間のような顔をした天人の顎を蹴り上げる。相変わらず華麗な身のこなしだ。
 華麗・・・・・・ちょっと違うな。


「おい、坊主。何があったんでィ」


 に庇われ、泣きじゃくる坊主に事情を聞く。


「お、おれ、走ってたら、あのおっちゃんに当たっちゃって・・・・・・っ・・・じゅ、銃で、撃たれそうになった所を、あのお兄ちゃんが」


 お兄ちゃん ね。


「大体、何だその正義の味方みてーな面で!やってることは悪役街道まっしぐらじゃねーか、この偽トラマンめっ!


 『お兄ちゃん』は嬉々として天人たちをボコボコにしていた。


「あー、そこまででィ。ー、それ以上は過剰防衛でさァ。そこら辺にしておかねィとしょっ引きますぜ」


 完全にダウンしている天人たちに止めを射そうとしているところを、止めに入る。
 そこでようやく俺に気が付いたのか、坊主の隣にしゃがむ俺を見つけるや否や半眼になる。


「あん? あーーー!真選組!お前、また高みの見物かよ。仕事をしろ、仕事。そこのいたいけな少年が危うく内臓撒き散らして路上に転がる所だったんだぞ」


「オイオイ、何だあのボウズは。なんつー物騒なこと言ってんだ?」


「あれ、土方さん。帰ったんじゃないんですかィ」

「帰るかバカ!俺ァ勤務中なんだよ!」

「ああ、そうでしたかィ。ならそこらに転がってる天人たち捕まえといてくだせィ。罪状は傷害未遂と銃刀法違反でさァ。俺は彼女と話があるんで」

「ァア?彼女だ?―――ってオイ、コラ待て」


 土方さんと話している間に、はさり気なく輪を抜け走り去ろうとしていた。
 そうは行くかィ。


「待ちなせィ、。アンタも事情聴取で受けてもらいやすぜ」

「なんでだよ」

「いくらなんでも過剰防衛でさァ」


 正直、正当防衛だろうが過剰防衛だろうが興味は無いが、このまま はいさようなら ではあまりに勿体無い気がした。警察の権限をフルに使ってまたさっさと立ち去りそうな彼女を呼び止める。
 しかしは、俺の隣にしゃがみこみ、庇っていた坊主に話しかけていた。


「少年、怪我は無い?」

「う、うん。ありがとう兄ちゃん」

「いいえー。今度からは気をつけるんだよ?」

「うん!じゃあね!」

「ばいばーい」


 「お兄ちゃん」と呼ばれても否定しないで、笑顔で坊主を見送っている。
 に倣い、2人でひらひらと手を振っていると、背後からどす黒いオーラが漂ってきた。


「あ"あ"ァ?お前何勝手に関係者帰してんだ?」

「・・・・・・・・・・・なんですか、この瞳孔開いたお兄さん。めっちゃ怖いんですけどあたし何かしましたか?」

「安心しなせィ、。この人は土方さんといってもうすぐ俺に副長の座を明け渡してくれるコレステロール値爆発寸前のマヨラーでさァ」

「ふーん。コレステロール高いの?」

「高くねェェェ!!」

「・・・・・・ま、いいけど。じゃあね、真選組さん。お勤めご苦労さん。もっと真面目に天人取り締まれよ!」


「待ちな」「待ちなせィ」


 さり気なく立ち去ろうとしたの、右腕を俺が、左腕を土方さんが掴んだ。


「・・・・・・なんですか?ナンパ・セクハラはお断りですよ」

「誰がナンパだ!」

「土方さん、セクハラはいけねーや。ちゃん、訴えるなら証人になりやすぜ」

「いや、キミも仲間だから」

「おめーら2人ともうるせェ。お前、ボウズちょっと屯所まで来てもらおうか」


セクハラ野郎、もとい土方さんの提案にはなんとも嫌な表情を浮かべる。


「えー。あたし何もしてないのにー」

「市中で大立ち回り演じてたのはどいつだ?」

「大立ち回りだなんて、そんなまさか。せいぜいちょっとした立ち回りってとこですよ」

「表現なんてどうでもいいんだよっ!いいから来い!!」

「ちょ、痛っ!テメ、このクソ公僕何しやがるっ!」


 まどろっこしくなった土方さんがの腕を掴み上げ、パトカーへ連行する。途端に飄々としていたの様子が変わった。


「ちょっとちょっと土方さん。ここは俺に免じてそこのファミレスで聴取といきやしょう」

「お前の何に免じろってんだ?」

「まあまあ、それに皆見てますぜィ。しかも俺らが悪者でさァ」


 坊主を助けたにもかかわらず、その人物をしょっ引こうとしている俺達は明らかに悪役だった。野次馬の非難の視線に気が付いた土方さんは盛大な舌打ちと共に掴んでいた腕を離した。


「チッ。 おい、総悟、さっさとそいつ連れて来い。行くぞ」

「へい」


 けっ、偉そうに。
 俺は適当に返事を返し、解放された腕をさするに歩み寄った。


「さ、。行きやしょう」

「何アイツ、すげームカつく」

「それは同感でさァ」

「キミもだよ。何勝手に名前で呼んでんだよ。誰の許可を貰った?」

「はいはい。こっちですぜ」

「人の話を聞け」



***



「お前、名前は?」


 往来で立ち回りを演じていた坊主をファミレスに連行し、名前を聞く。


「あ、お姉さんちょっと。デザートメニューここからここまで全部持ってきてください」

「はい、かしこまりました。お飲み物はいかがなさいますか?」

「煎茶で」


 しかし真選組の隊服を着た俺達を前にしても、全くペースを崩さない。
 どころか俺達などいないかのようにありえない量の注文をしている。
 全部デザートだ。


「こ・た・え・や・が・れ!」

「あ"あ"? 何なんですか?コレステロール高めの副長さん。あんな銃刀法違反の天人野放しにして、あまつさえ市民に危害が及びそうになったところを止めた善良な一般市民を強制連行しておいてその態度は無いんじゃないですか?何様だテメー」

「おい総悟、切っていいか」

「俺が切ってやりまさァ、土方さんを」

「よーしやっぱお前からだ、剣を抜けェェ!!」


「お待たせいたしました」

「あ、ありがとうございます」


 総悟の相手をしているうちに注文の品が出てきたらしい。
 俺達のやり取りなどどこ吹く風、嬉々としてパフェに取り掛かる。


「オイ、テメーいい加減にしろよ?」

「いい加減にするのはそっちだろ。そっちのちっちゃい真選組さんもそうだったけど、真選組って自分は名乗りもせず相手にばっかり名乗らせる風習でもあるんですか?」

「・・・・・・さっき総悟に聞いてただろうが」

「誰がちっちゃい真選組ですかィ」

「アナタの口からは聞いてません」


 そうこうしているうちに2つ目のパフェに差し掛かっている。
 あー、なんかアレだ。誰かに似てる


「・・・・・・土方だ。土方十四郎。真選組副長だ」




 
 
 女だよな?見た目は確かになよっちぃっつーか、可愛らしい顔をしている。が、総悟の例があるからな。


「女か?」

「さあ? どっちでもいいですよ。そんなの」

「これが女以外何に見えるんですかィ?もう目にきやしたか?そろそろ引退時じゃなんですかィ?」

「うるせェ、おまえちょっと黙ってろ」


「じゃあ、。さっきの話をしてもらおうか」

「・・・・・・なんでコイツこんなに偉そうなの?何様?」

貴様が何様かーーーーっ!!!


 何なんだ!?
 何でコイツは一々一々気に障る発言を繰り返すんだ?


「あーあ、土方さんは気が短くていけねーや」


 俺か?俺が悪いのか?
 どう考えたってこの娘が悪いだろ。

 俺はコーヒーを一口飲み、思考を落ち着かせる。


「さっきの詳細を話してイタダケマスカ」


 怒りでカタコトになった俺を気味悪そうに見遣りながらは嫌々事件の詳細を話し始めた。
 詳細と言っても総悟が坊主から聞いたことと変わりは無い。
 走っていた少年がぶつかって、それに怒った天人が拳銃を取り出した。そこを見ていたが止めに入った―――ということらしい。


「あたし、感謝状贈られることこそあれ、怒られることなんてしてないと思うんですけど」

「しかしいくらなんでもやりすぎでさァ。あんたが最後に蹴り入れようとしてたヤツなんか足、変な方向に曲がってやしたぜ」

「そう? カルシウム不足なんじゃない?留置所のご飯は骨っ子にしてあげなよ」

「そういう問題じゃねェ!よく聞け小娘!世の中にはなぁ、過剰防衛って言う言葉があるんだよ!」

「はあ!?拳銃持ち出した相手に過剰も不足もあるかよ!文句があんならテメーらが真面目に取り締まれ!サボってんじゃねーよこのクサレ役人が!」

「アアァァ!!??もっぺん言ってみやがれ」

「この ク サ レ や く に ん が っ!!」


「あーお2人さん、そこら辺にしておきなせェ。店の人が見てますぜ。土方さん一々怒鳴らないでくだせェや。も早く帰りたいんならちゃちゃっと質問にこたえろィ」



***



「年齢は?」

「16」

「16!?もっと下かと思ってやした」

「失礼だね」

「生年月日」

「知りません」

「血液型」

「調べてません」

「住所」

「秘密」

「ふざけんなこのアマ」

「土方さんは黙っててくだせィ。―――職業」

「フリーター」

「ぷー太郎ですかィ?」

「アルバイト」

「ふーん。好きなタイプは?」


「「・・・・・・・・・・・・」」


 事情聴取にナチュラルに混じった明らかにおかしい質問。
 思わずクソ生意気な小娘と共に黙り込む。


「ちょっと待て総悟」


「何ですかィ?」

「何じゃねー、何だその質問は」

「何って、気になりやせんか?」

「ならねーよ」

「で、好きなタイプは?」

「ちょっと副長さん、公然と隣で部下によるセクハラが行われているんですけど。大体女性に対する取調べには女性警官が立ち会わなくてはならないんじゃないですか。訴えますよ」

「誰が女性だって?」

「あたしが」

「――――――ハンっ」

「鼻で笑いやがったよ、このニコチン野郎」


 女性だって?
 こんな汚ねー言葉遣いで、男みたいな格好をした明らかに総悟よりも年下の小娘のどこに女を見出せと?
 ファミレスのデザートメニューを制覇しそうなヤツは女と定義されない。


「あん?今すげー失礼な事考えなかったか?」

「気のせいだろ。お前の発言の方が大概失礼だ」

「仕方ありやせんね。じゃあ付き合ってる男は?」

「ねーねー、調書ってどうやって書くつもりなの?コレ」

「さぁな。コイツの事だから調書なんて書かねーんじゃねーのか」

「それでいいのか?公務員」

そこ、何仲睦まじく話してるんだィ


 小娘は総悟を完璧にシカトして俺に話しかける。明らかにバカにした態度で。黒い笑顔で低く言う総悟を全く恐れる事無くジッと見つめている。


「ねえ、キミものすっごい我儘でしょ」

「そんなこと無いですぜ。俺ほど聞き分けの良いヤツァいませんぜ」


 誰の聞き分けが良いって?ア"?


「ふーん。ま、いいけど。職権乱用も程ほどにしとけよ?―――はい、これあげるから」


 小娘は総悟と俺を交互に見遣り、ニヤリと笑うとまだ手をつけていない最後の一皿を総悟の前へ押しやった。


「あたしこれからバイトだから」


 ごちそうさま と言って席を立つ。


「あ、待ちなせィ。まだ話は―――」

「職務質問は終わりだろ?プライベートな質問はお断り。
―――またね、真選組さん」



***



「おい、総悟」

「何ですかィ。俺ァ今虫の居所が悪いんでさァ」

「パフェ食いながら言う台詞じゃねーぞ―――ここの勘定お前が払えよ」

「何言ってるんですかィ。捜査経費でさァ」

「何の捜査だよ。結局何も聞き出せてねーじゃねーか」

「・・・・・・土方さん、アイツは俺が先に見つけたんですぜ。手出したら殺しやす。ていうか死ね土方」

「誰が手なんか出すか」

「ならいいんですけどね」

「っ!?・・・・・・お前本気か?」

「何がですかィ」



 小娘が置いていったパフェを不機嫌極まりない無表情で貪り食う総悟。
 面白い事になった。

 か。

―――覚えていてやる。


後書戯言
今のところシリーズ最長。
なんつーかすごい楽しんでてゴメンナサイ。
相変わらずデザートメニュー制覇をもくろんでいる武道派ヒロインです。 1話完結を目指しているのですが、何せ長編体質なもので、どこでどう区切ればいいのやら・・・。出会いなら明け方のシーンだけでよかったんですけどそれじゃあ短いし。かといって2度目の再会シーンも入れると長いし。結局入れましたけど。スクロールバーが無い事をいいことに何食わぬ顔でUPしてますが、他の3作の倍はあります。ま、いいか。 テーマは総悟ふぉーりんらびゅ。(ウザ)
06.08.29
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