180度崩れた世界
「ちゃーん、ちゃんと掴まって無いと振り落としちゃうよー」
「うひょぉおお!?」
原チャの後ろに横座りし、軽く腕を俺の腰に回すだけのに、一言忠告して一気に加速すると、驚いたは振り落とされないようがっしりとしがみついて来た。
大体、国道走るのに横向きに座り、片足を立てるそのポーズはなめすぎだろう。急な加速に心を入れ替えたはきちんと座り直ししっかりと掴まる。
「なぁ、万事屋さん。ちょっとスピード出し過ぎ、てか出過ぎ!」
「ん〜、そんなことないっしょ〜って、ちゃん!大人しく座ってて!もう乗せてあげないよ!!」
「えー、だって万事屋さんの背中しか見えなくてつまんないんだもん」
大人しく座ったと思ったら、胴体に回していた腕を首にかけ、肩越しにメーターを覗き込んで来た。
女の子乗せてこんなに動き回られたのは神楽以来だ。
まだ免許を取っていないは興味深そうにメーター周りを見ている。
「万事屋さん、髪くすぐってぇ」
「お互い様でしょー」
「いやしかしやわけーな、この天パ」
人の背中で膝を立て、ノーヘルの頭に指を突っ込んでわしわしと撫でられる。
なんつーかさ。別に俺はロリコンじゃないし、は確かに可愛いけど、言ってみれば妹とかそんな感じで。だって全くこっちを男として見ていないからこそこの行動なんだろうし。いや、そうであって欲しい。誰彼構わずこんなことしていたら大変だ。
肩から回された腕はほんのり暖かいし、背中にはサラシで押さえているとはいえ確かに存在する柔らかな膨らみが当たっているわけで。
妹みたいなものとは言っても実際妹なわけじゃないしわけで。
ここで胸当たってるよーとか言ったら殴られるくらいじゃ済まないだろう。
こうして気を許してじゃれてくれるのは嬉しい反面、もう少し危機感とか警戒心とか言う物を持って欲しいとも思う。
「あ」
悶々といらない事を考えていると、何かに気がついたが声を漏らす。
「ん?―――あ・・・・・・」
何事かと、サイドミラーを見た時には既に脅威が迫っていた。
ひゅんっ
ドカーン!!!
***
小さく何かが空を切る音がしたと思ったら、進行方向で爆発が起きた。
俺は直前でハンドルを切りなんとか何を逃れたし、そのさらにその寸前、背中が軽くなったのでは直前に飛び下りてくれたのだろう。
振り落とされたのでなければ。
「なーにしやがる、この不良警官どもがーっ!!」
後方で爆発の犯人に襲いかかってる声がし、無事が確認できた。
「ちょっとちょっと多串くん。どういう事ですか、これ。善良な一市民にいきなりバズーカなんて向けて良いと思ってんの?」
ズガン スパァン
ズガン スパァン
ズガン スパァン
続けざまに3発。バズーカが発射される音と、それを扇から伸びる鋼線で叩き切る音。
ちょっと人間業じゃない。
「おいこらてめェ普通弾頭斬るか?」
「そっちこそ普通一般市民に向けてバズーカ発砲するか?」
「誰が多串くんだ。俺は関係ねーぞ。撃ったのは総悟だからな」
パトカーからのんびりと出てきた多串くんは後ろで繰り広げられる戦闘など全く気にしていない。
それどころか、沖田の発砲自体を気にしていない。
慣れって恐ろしい。
「うわー何それ、無責任。育児放棄?ちゃんと監督してくれないと困るんだよねー。最近行く先々でちゃんとのデートぶっ潰されててさぁ」
「お前、年考えろよ。犯罪だぞ」
ヒュンッ
バズーカを捨てた沖田がありえないことに抜刀してちゃんに斬りかかる。
「おいおい、沖田君って一番隊の隊長なんでしょ?真選組一番の使い手なんでしょ?あんなん放っておいて良いわけ?」
キィイン
さらにありえないことに、は難なくその一太刀を扇で受ける。
「ほう・・・・・・なかなかやるな、小娘」
「感心してる場合かよ」
「てっめー、市民を守るおまわりさんの癖に発砲だけじゃ飽き足らず抜刀か?」
「お前ェこそホントに一般市民か?なんか別の生命体だろィ」
「おい万事屋、免許出せ」
「はあ?何よいきなり」
「ノーヘル、二人乗り、スピード違反。こりゃ免停だな」
「えーキミ等対テロ組織でしょ?そんな軽犯罪にかまけてる場合じゃないんじゃないの?」
「道路交通法違反は軽犯罪じゃねーよ」
「点数稼ぎですかー?おいおい勘弁しろよなァ、俺達市民はお前らの懐潤すためにいるんじゃねーぞ」
「ばかやろー、切符切りくらいで真選組の点数が上がるとでも思ってんのか?舐めるなよ?」
「・・・・・・・・・・・自分で言ってて虚しくなんねぇ?」
そうこう話しているうちに、子供達の命がけのじゃれあいはヒートアップしていく。
一体何本隠しているのか、次々との扇から鋼線が沖田の足元を狙って放たれると、タタタっと小気味いいテンポでそれらをかわし、仕返しとばかりに沖田の刀が襲い掛かる。
・・・・・・後ろから。
しかしそれもあっさり弾き、開いた扇の弧面が横薙ぎに首を狙うと、縦にかざした刀で防がれる。
2人とも結構本気だ。
「へぇ・・・・・・中々やりますねィ」
「だーっ!もういい加減にしろよな!なんなんだよ、毎回毎回人が万事屋さんと居るときばっかり狙ってきやがって。やきもちか?やきもちですかコノヤローそんなに遊んでもらいたいならあたしじゃなくて本人のとこ行けよ!不倫相手を逆恨みする昼ドラ女かよテメーは」
「あれー?なんかちゃんすごいとんちんかんなこと言ってない?」
「あ?小娘の台詞は8割方とんちんかんだろ」
早口で捲くし立てられた台詞が癇に障ったのか、沖田の目が鋭く開かれる。
(あーあー瞳孔開いちゃってまあ。多串君じゃないんだか)
ガキンッ
金属同士が打ち合う音がし、鍔迫り合いとなる。
それにしても、刀を受けられる扇とは一体どういう構造になっているのだろう。
「好きだからに決まってんだろィ」
「あ、言っちゃった」
「・・・・・・・・・・・」
殺伐とした空気の中、突然の告白。
多串くん、タバコ落ちたよ。
「え?万事屋さんが?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
あまりといえばあまりの返答に、傍観者2人絶句する。
「アホか。、テメェのことに決まってんだろ」
哀れむべきはこんな所、こんな状況で告白されたか。
はたまた今までのアプローチがことごとく届いていなかった沖田か。
ようやく告白の意味が脳まで届いたのだろう。
は扇を刀の鍔に引っ掛けたままの形で固まってしまった。
「隙あり」
ちゅ
「・・・・・・・・・・・多串君、ホントどういう教育してんの?」
「いやなんつーか、もう俺にゃヤツは理解できねー」
公衆の面前(といってもこの場にいるのは俺と多串君だけだが)でキスされたはたっぷり3秒は放心した後、みるみるうちに赤面した。
「な、な、な、何すんだよ!!!」
「ぐふぉっぅ!?」