悩める青少年達
寝不足の表情で万事屋を訪れたは、羊羹3本を引き換えに、一層顔色を悪くして事務所を後にした。
の気持ちなんて沖田ほどではないが見ていれば分かる。
呼び名云々の話は掘り返さなくても良かったかとも思うけど、もそろそろ立ち直るべきだ。
逃げてばっかりじゃずっと子供のまま。
―――これ以上総悟が大事になったら、あたしきっと総悟を押し潰しちゃう
「最高の殺し文句だと思うけどねぇ―――沖田君?」
スッと押入れの襖が開き、私服に身を包んだ沖田が神楽の部屋から現れた。
実はが訪れる前、沖田が家を訪ねてきていた。
依頼内容はムカつくくらい一緒で、しかも報酬まできちんと現金払い。
まあ可哀想といえば可哀想な状況に、柄にも無く肩入れしてしまったわけだ。
「こりゃ、喜んでいいんですかねィ?」
「さーねー。しっかし、面倒な子に惚れちゃったもんだね、キミも」
「全くでさァ・・・・・・好きならそれでいいじゃねーか」
ぼそっと呟く沖田は真選組一番隊隊長では無く10代の少年の顔をしていた。
「ていうか沖田君?キスまでしちゃう仲だなんて聞いて無いんですけど」
「キスまでしちゃう仲なのに全く恋愛対象に見られていなかったとは思いやせんでした」
「まあ、あれは見て無いというかあえて外してたってトコだよね」
「・・・・・・・・・・・・旦那は、のなんなんですかィ?」
「んー?ま、兄貴分。に、なれたらいいなーと思ってる」
「何ですかィ、それは」
「俺の気持ちも一方通行って事だよ」
「旦那はそれでいいんですかィ?」
「うん。約束したからね。見守るって」
「誰と?」
「それは秘密」
の正体に気が付いて、一方的に交わした約束。
あの時守りきれなかった夫妻へ捧げた誓い。
は自分の知らないところで、たくさんの人に守られている。
本人がどんなに否定したって、人とのつながりはそう切れるものじゃない。
「まあ、精々悩みたまえよ青少年。ちゃん泣かせたら殺すから」
「そりゃ怖ェや」
「(ま、今のところが泣くのは沖田絡みのときくらいだろうけど)」
***
「!」
会いたくない人に会ってしまった。というか、探されていた?
人気の無い道を選んで時間を潰していた時、路地の1つに見慣れた黒い隊服と明るい髪。
どうしていいか分からず、とりあえず回れ右して全力疾走。
逃げてどうするんだ、私。
でも逃げる以外どうしたらいいのか分からない。
まだ気持ちの整理がつかない。
でもいつになったらつくのかも分からない。
「待てって!」
ああ、やっぱり切り込み隊長の肩書きは伊達じゃないね。雑念だらけの走りじゃ振り切ることも出来ない。
「好きでさァ」
やめてよ
「が好きだ」
やめてってば
「が俺のことどう思っていても、俺はお前ェが好きでィ」
「・・・・・・」
まっすぐな告白に、返す言葉が見つからない。
「は?」
「あ、あたしは・・・・・・」
「好き?嫌い?」
ああ、またあの二者択一だ。
「す・・・き・・・・・・」
もう逃げられない。
気が付いたら、口から漏れてた「好き」の一言。
心底嬉しそうな沖田の笑顔に、泣きたくなった。
「でも・・・・・・」
「何がでもでィ。俺ァお前が好きで、も俺が好き。何も問題ねーでさァ」
「・・・・・・無理。だって」
「だって?」
「隊長さんは・・・・・・だめ。あたし・・・・・・」
好きになっちゃだめ。
両親に師匠。
大切な人達が居なくなっても、彼等の分まで生きようと、むしろそれだけを支えに生きてこられた。
自ら命を絶つなんて許されない。どんなに汚れたって生き延びて、師匠の年を追い越して、一杯生きて会いに行こうって決めてたのに。
「総悟が死んだら、もう立ち直れない―――」
次はもう無理だ。
***
「――――――ってな具合に落ち着きやした」
「・・・・・・一体どの辺りが落ち着いたって言うんだ?好きです、まあ私もよ〜、わーい俺達両思い♡って小学生の恋愛ごっこじゃねーんだからよ」
後日、一応世話になった結果報告もかねて、万事屋を訪ね、路地裏での会話を伝えると呆れ果てた目で見返された。
「やだなァ旦那。いまどき小学生だってもっと進んでやすぜ。若者の性の乱れって問題になってるじゃねーですかィ」
「要するに、キミ達は小学生以下だって自分で言ってるって気付いてる?―――で、付き合ったりとかしちゃうわけ?言っとくけど不純異性交遊なんて許さないよ銀さん。5000歩譲ってもちゅーまでだからね!」
死んだような目に一瞬光が灯り、ふざけた台詞に似合わない鋭い眼光が俺を射抜く。
この過保護な自称保護者はキスすら5000歩も譲らないとダメらしい。
「俺ァもう18ですぜ〜」
「ちゃんはまだ16です!」
「旦那〜いまどきの16なんて言ったらセックスどころかガキまでこさえて結婚離婚まで経験してまさァ」
「ヨソはヨソ!うちはうち!」
「はいはい。ま、当分手は出しやせんよ。別に付き合ったりとかもしねェし」
どこかで聞いた台詞に苦笑する。
別にこれから何かが変わるわけじゃないという事を伝えると、今度こそ、信じられないといわんばかりの勢いで問いただされた。
「はあ!?キミそれでも健全な青少年ですか!?18なんて覚えたてのサルみたいにヤりたい盛りじゃん!あ、もしかしてどっか悪いの?あらら〜ごめんね〜悪い事聞いちゃって」
「違ェやす―――別にいいんでさァ・・・・・・は、俺が死んじまったら生きていけないくらい首っ丈なんですぜ?今んとこはそれで満足でさァ」
―――総悟が死んだら、もう立ち直れない
冗談や睦言ではない心からの言葉は、俺の劣情を全て払拭するほどの力を持っていた。
これほどまで求められて、これ以上何を望めって言うのだ。
「・・・・・・へぇ〜、意外と無欲なんだね」
「なんせヤりたい盛りですからね。一度手を出したら大変なことになりそうで」
「そっちが本音か」
「さーねィ」