現在と過去は交じることなく
「きゃっ」

「あ、おい!」





押し寄せた人波が去ったと思ったら、の姿が見あたらなくなっていた。
急いで辺りを見渡すが、小柄な体は人混みに紛れて見つからない。


探さなくては。


そんなに遠くに行ってはいないだろう。
たがあのが、はぐれたからと言って大人しくその場にいてくれるとは思えない。



『沖田隊長、どこにいるんですか!?』

「お前ェがどこ行ってんでィ。とはぐれた。俺はいいからアイツ頼む」



全く使えない監察だ。
護衛中対象を見失うなんて。

開閉式の携帯を乱暴に閉じ、自分のことは棚に上げ、が流されたと思われる方向へ走り出した。





***




人波に押されて気が付けば1人通りの真ん中に取り残されていた。
キョロキョロと周囲を見渡すけど、あの明るい髪色は見当たらない。
山崎さんは大分前にはぐれたきり。

抹茶ミルクのカキ氷で少し浮上していた気持ちが一気に沈んだ。



カラカラカラカラ



風が吹き抜けたと思うと、通りの脇から物侘びしい音がした。
目を向ければ、竹で編んだ板に差し込まれた色とりどりの風車たち。
カラカラと風に合わせて不規則な音をたてている。















師匠ーあれ欲しい

バーカあんなもん和一に作ってもらえ

ヤなこった何で俺が風車なんて乳くせーモン作んなきゃなんねーんだよ   

かざぐるま?

なんだ風車知らないのか?

知らない


和一


・・・・・・へいへい


作ってくれんのか!?

公の頼みだからな  

ありがとう師匠!

礼は俺に言えバカガキ!

っせー和一 

   


お言葉が過ぎましてよ和一兄様

言い方の問題じゃねーよ
















視界が滲んだ気がして、知らず立ち止まってした足を叱咤し無理やり歩みを進める。
お祭りなんて数えるほどしか来たことが無い。
数少ない記憶にあるお祭りには必ず師匠やみんなの姿があって―――


(1人で来るもんじゃねーよな)



1人にしないって言ってたのに。


空いた両手が寂しくて、手の平に爪が食い込むくらい強く拳を握りしめた。












視線を下に向けて、トボトボ歩いていると、着せられた着物の裾が目に入る。

なかなか上等な生地の薄桃色。
これがあの沖田の好みだというならとんだ少女趣味だ。
そういえば、初めてお祭りに連れていって貰ったときの浴衣も―――















なんだ、んな女みたいなモン着て

師匠が貸してくれたんだ!

か、貸し!?ってことはその浴衣公のお古か!

うん!これ着てお祭り連れてってくれるんだって!

汚したら流木の刑ね☆  

げ。

おいおい公よ。あれがお前のだなんて嘘だろ?嘘だと言ってくれお前に桃色は似合わねー

・・・・・・前言撤回。が汚したら和一流木の刑

は!?

やった!






結局私の行儀が良かったお陰で和一兄も私も流木の刑は免れたんだけど。




なぁ、あれなぁに?

ん?なになに、あれが食べたいのか?よし!和一買って来い

ああ゛?んな甘ったるいモン食ってんなよ

キサマ綿あめを侮辱する気か?あ゛?

わたあめ?

家帰って砂糖でも舐めてろ

さとう?

もうキサマには頼まねーよバーカバーカ。行ってこい

ちびパシんな!

















数少ないお祭りでの記憶。
だけど大切なモノは小さなことでも覚えているもので。
他愛ない会話の一つ一つ、表情までもが鮮明に思い出されて――――――



「お嬢さん、綿あめはいらないかい?」



せっかく思い出に浸っていたのに。

下卑た声に我に返った。






***






どこへ行ってしまったのか、は見つからない。
これは本格的に範囲を広げた方がいいだろうか?

ポケットに突っ込んでいた携帯が着信を告げる。

山崎だ。


『もしも「は?」』

『目撃証言です。ちゃんらしき人物が裏通りのほうへ行ったそうです」


なんであの女はじっとしてらんねェんでィ。


『今追跡中です。隊長も―――「沖田だな?」


突然周囲を取り巻く物騒な気配。


「悪ィ山崎。お客さんでさァ。お前ェは追え」

『たいちょ』


返事を待たずに通話を切り、無粋な客人に向き直る。
今までどこに潜んでいたのか、見るからに柄の悪い連中が5、6人。


隊服は着ていなくても幹部は自然と顔が知れてしまう。
それは局長副長に限ったことではない。


「ちょいとご足労願おうかねぇ」


だからこうして非番の日に絡まれることだって少なくない。
だが今日は一段と間が悪い。


「手短に済ませろィ。俺ァ今気がたってるんでィ」


「まあそう言うな。カワイイ彼女がお待ちかねだぜ?」



***



「シカトこいてんじゃねーぞこのガキ」


声だけで品の無さが伺えるようなおっさんの為に立ち止まる謂われはない。
だけど周囲360度を囲まれてしまっては足を止めざるを得ない。
この廃刀令のご時世に腰に刀を履いた浪人風の男たち。


「何か?綿あめなら買いませんよ。財布とはぐれましたから」


下を向き、ぼんやりと考え事をしていたら知らないうちに公園を出てしまったようだ。
縁日の賑やかさは消えていた。


「ちょ〜っとおじさんたちと来てくれたらタダでご馳走するよ」

「知らない人からモノ貰っちゃいけませんって言われてるんで」


ジリジリと輪は狭められている。
無意識に危機を感じ、懐に忍ばせた武器に手を伸ばす。


「なら力ずくで連れていくまでだ!」


リーダー格と思われるおっさんのかけ声を合図に周りを取り巻くおっさんたちが一斉に飛びかかってきた。








***








人ゴミをかき分けて山崎の言っていた通りに向かって全力疾走。

口ほどでもない(全くもって役者不足だった)浪人は手錠をかけて路上に転がしておいた。

かわいい彼女と言ったらしかいない。
アイツが危ないとは思わない。
なら過剰防衛でしょっぴかれそうなほど刺客は弱かった。
だがそれも以前のならという話。
4年前の彼女のことは分からない。


報告のあった方角、広場をでて少し横路に入った路地から戦闘を思わせる音がした。


!」


輪の中心で10人弱の浪人を相手にしているのは当然で。
予想通り全然苦戦はしていない。


苦戦してはいない。


だけど、何か違和感が――――――


呼びかけに気づかない彼女を援護すべく、走る速度を上げた。




後書戯言
ちゃんピーンチ・・・でもなし。
もうこの話で終わらせるつもりだったなんてもう言いません。
07.06.03
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