なんて素敵に放置プレイ!
「まだ裏は取れねーか」
見回りの途中。パトカーから降りて自販機からコーヒーを2つ買ってきた土方が、その一本を沖田寄越しながら、主語のない問いを投げた。
「裏どころか、表もさっぱりでさァ」
ぐったりとボンネットに寄りかかり、返す沖田の返答には覇気がない。常日頃土方に向けられている毒気がすっかり薄まってしまっていた。その理由の8割は理解しているつもりの土方は、しかしその返答には舌打ちせざるを得なかった。
もちろん、沖田からも舌打ち返される。
「チッ、ブラックかよマヨ方がカッコつけやがって」
「おめーもコーヒーブラックだろ!腹ん中真っ黒にしやがって!」
「あーあ、キャラメルマキアートにガムシロ4個入れて苦ェとか悶えるが喰いてェなー」
「ぶッ・・・・・・ちょ、おま」
「うわぁ、土方さん。だからブラックはまだ早ェですぜって言ったんでさァ」
「言ってねーよ。一言もそんな助言はされた覚えがねーぞ!」
当然のように奢られたコーヒーに難癖つけつつ、早々に飲み下した空き缶を前歯でくわえて遊びながらの危ない発言に、土方のコーヒーが半分ほど宙に舞った。
とは、言わずと知れた沖田の恋人、のはずの少女だ。普段の沖田は土方を含め他人に惚気るということをしない。もともとの話をしないのが常だ。だが、その沖田が、ある一定の条件を満たすと今のようにもはや口にするだけでも犯罪なのではないかという突っ込みどころ満載な妄想が漏れ出すのだ。
一定の条件が満たされつつある。
なんせここ数週間、そのにまったく会えていないのだから。
「どこから突っ込んだらいいかわかんねェから聞かなかったことにする」
「あれはガムシロの数じゃなくて、コーヒーの成分がよくなかったと思うんでさァ。だってもう甘過ぎてキャラメルもマキアートもなかったし。ただの甘い水だったし。濃茶は平気で飲むくせに」
もはや沖田にしてみれば、隣にいる人間(土方)が聞いていようがいまいが、どうでもよかった。ただ余りの不足に、半ば無意識で言葉を紡いでいる。
そろそろ限界だろうか、と任務を下した張本人は頬を引きつらせるしかない。もう走り出した作戦は止められないし、普段どんなにサボっていようと、この手の仕事で沖田が手を抜かないことも承知している。だからと言って「断ち」を自らに課すことはないと思うのだが。
「で、あとどれくらいで落ちそうなんだ」
「知りやせん。んなに急ぐんなら自分がやったらどうですかィ色男が」
「仕方ねーだろ。俺ァ面割れてんだ」
「ほんっと、飯食って正体ばれたとかいい加減にして欲しいよなァ。切腹しろ切腹しろ切腹しろ切腹しろ・・・・・・」
「・・・・・・」