02.突きつけられた刃
刀なんて地元の博物館でしか見た事無い。
まさかその切っ先を向けられる日が来ようとは。
2人の人物(男の人だった)は、刀は納めたものの、左手は鍔元に掛かっていて。
とんでもない威圧感に、もう眠いなんて言ってる場合じゃ無くなった。
彼らは混乱し、立ちすくむ私を挟み、最初の部屋に連行する。
気が付くと、私は黒い集団の中心で正座をさせられていた。
正面には、さっき声をあげたゴリラっぽいおっさんと、刀を向けた片割れのおっさん。
いや、おにいさんくらいかな?
他360度見知らぬおっさんだらけ。
出入口にも2人、立っている。
なんなんだろう、この物々しさは。
怖いよ。怖すぎるって。
意味分かんないし。
夢?夢か?
「おい」
「はい!」
正面の若い方が呼ぶ。
「お前、何者だ?どういうつもりでどこから侵入した?」
(しん、にゅう?)
「あ、あのっ、ここはどこなんでしょうか?」
「・・・・・・ア゛ア゛?ふざけてんじゃねーぞこのアマ!!」
怒鳴り声に体が跳ね上がる。
こ、この人やばい。
「まあまあ、トシ。そんなに怒鳴るな。怯えているじゃないか」
ゴリラっ!
なんていいゴリラなのっ!
「―――ちっ。おい、お前、名前は」
「―――っ、・・・っです」
声のトーンは落としてくれたけど、やっばり怖い物は怖い。
「で、どうしとこんなところにいるんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
だからここがどこだか分かんないんだって。
私は確かに自分の家にいたのに。
大体こんな危ない銃刀法違反集団がどうして野放しになってるのよ。
日本の警察は何してるんだ?
「だんまりか?あ゛?」
「っ、あ、いえ・・・・・・」
うっかり逃避してしまい、また凄まれる。
「お嬢さん、素直に話した方が身の為ですぜ。そこの土方さんは怒ると目からマヨネーズ飛ばしてきやす」
「え、目?マヨ?」
「飛ばすか!!!」
「あの・・・・・・私自分の部屋にいたんです。用事があって弟の部屋に来たら、この部屋だったんです」
「そんな話が通じるとでも思ってるのか?」
「ですか、本当の話なんです。いくら寝てなかったからって、自分の家の中で迷うなんて。私の家にこんな大きな部屋なんてありませんし、もう何が何やら。ここはどこなんですか?」
説得力のない話だって言う事は自分でも分かっている。
「真選組の屯所だ」
「新、撰組?」
うそだろ?
新撰組っていえば江戸時代だっけ?に活躍した人達だよね?
私は根っからの理系人間。
興味のない事は片っ端から忘れて行くから授業で習ったであろう詳細はまったく思い出せないけど。
正直、歴史というか社会科は嫌いだ。
詰め込み方の受験勉強から離れて早4年。
記憶の消滅は大分進んでいる。
ただ、そんな私にも分かる事がある。
21世紀に新撰組はいない。
「えっ、と・・・・・・嘘でしょう?」
「あんだと?」
「だって、新撰組って言ったらまだ徳川幕府の頃だから200年くらい昔だし、制服だってそんなんじゃなくって水色っぽい羽織りみたいなのだったし。100歩譲ってあなた方が新撰組だとして、どうして私がそんなところにいるんですか!?」
「こっちが聞いてんだよ。訳の分からなぇコトブツクサ言いやがって、警察舐めんのも大概にしろよ」
マヨネーズを目から発射するらしいおにいさんはどうやらキレやすいらしく、チャキっと抜いた刀を突き付けられる。
途端に、視界がその切っ先に支配される。
体が強張り、上手く息が出来ない。
「まあまあ、土方さん。そう無闇に人に刀向けるもんじゃありやせんぜ」
言いながら私と、おにいさん―――土方さん?―――の間に誰かが割って入って来た。
「お前だってさっき向けてたじゃねぇか」
「ありゃ、土方さんにつられたんでさァ」
人をバカにしたような態度。
そうか、さっき追いかけて来た2人のもう片方が彼だったのか。
「あーあー。こんなに怯えちまって。お嬢さん、ちょっとこっちに来てくだせィ」
土方さん(仮)を適当にあしらうと、くるっとこちらを向き直る。
刀が視界から消えた事で、大分楽になった。
そして私の腕を掴み、立ち上がらせた。
促されるまま立ち上がると、部屋の外へ連れて行かれる。
「待て、総悟。何の真似だ」
「ちょっと確かめたい事がありやす。気になるんなら土方さんも来ればいいでさァ」