03.まさかこんな日が来るなんて
土方さん(仮)の制止も顧みず、総悟と呼ばれた少年はズンズンと廊下を進む。
見れば見るほど、私の家の面影は無い。
一般家庭の家がこんなに広くて入り組んでたら掃除が大変だ。
後ろから土方さんとゴリラが付いて来る。
はっきり言ってめちゃめちゃ怖い。
広い屋敷の、一際高い建物に連れて来られた。
不安定な梯子を登ると、四方柱のみの開けた階に出た。
これは物見櫓?
「こっちでさァ」
見渡す間も無く、呼ばれた方へ駆け寄る。
「うえ?」
そして目に入った光景に、言葉を失った。
私の住んでいるのは東京のベッドタウンである街の一つ。
駅前の便利なところで、周囲には、今では高層とは言わないかもしれないが15、6階建てのマンションが建ち並ぶ。
建物は言うまでも無く、鉄筋コンクリート。
それに引き換え、今目に映る光景はどうだろう。
見渡す限りの木造建築の群れ。
高さは精々あっても2階建て。
あれだ。修学旅行で行った映画村のセットみたい。
その割りには妙に明るくて、電灯やネオンが皓皓と照っている。
ここはドコデスカ?
何時代ナンデスカ?
「お嬢さん、今度はこっちでさァ」
呆然と振り返る。
と、今度こそ声も出なかった。
平らな住宅群から突き出した光る建造物。
何かの映画に出て来るような―――そうだ、果てしない物語の街を機械で作った感じだ―――。
おかしいよ。
ここはドコ?
私の知る新撰組のいた時代(多分江戸時代)にこんな建物はなかったし、電気だって通っていない。
かといって、21世紀の日本に、いや地球にこんな変な建物はなかった。
あったら絶対ニュースで取り上げられてるって。
立派な観光スポットだよ。
呆然と目を奪われる私は、探るように見つめて来る3対の目に気が付いていなかった。
「ここは・・・・・・どこですか?」
「江戸でさァ」
「江、戸・・・・・・。江戸時代?でも・・・・・・私の知ってる江戸時代じゃない。ううん。私の知ってる世界じゃない」
「アンタどこから来たんですかィ?」
「ですから、自分の部屋から・・・・・・。21世紀の神奈川県。こんな、木造の町並みはもう無いし、ましてやあんな変な建物なんか・・・・・・」
「お嬢さん、歳は?」
「22」
「え、そりゃ確かですかィ?俺ァてっきり同じくらいかと思ってやした」
「ああ、童顔の家系なんです」
「家族構成は?」
「両親と4つ下に弟がいます」
謎の建築物に目を奪われたまま、反射で質問に答える。
「うーん、こりゃどうも・・・・・・」
「何がしてーんだ、総悟」
「どうも記憶喪失や気が触れている類いじゃ無いようでさァ。―――そうだ。お嬢さん、天人?」
「あまんと?」
聞き慣れない単語だ。
チョコに入ってるヤツ?
「・・・・・・決定でさァ。土方さん、俺たちはどうやらとんでもない迷子を拾っちまった様ですぜ」
「は?」
迷子――――――。
突然、足の力が抜け、立っていられなくなる。
「おっと、しっかりしなせィ」
少年、(総悟だっけ?)が呆然と座り込む私を覗き込む。
「まいご?」
「ああ。どうやらお嬢さんはとんでもなく遠いところから来たみたいだ」
「遠い、ところ・・・・・・」
「今流行りの ぱられるわーるど ってヤツでさァ」
「パラレル・・・・・・流行ってるんだ・・・・・・っ」
バカみたいだ。
ほんと、バカみたい。
到底理解出来ない状況に、私は歪んだ笑いで涙を誤魔化すしか出来なかった。