04.示された道
気が付くと、私はまた初めの大きな部屋で見知らぬおっさんたちに囲まれていた。
ただ違うのは、今度は隣りに総悟とかいう少年(少なくとも私より年下)が座ってくれていること。
ただ見張っているだけかもしれないけど、なぜか少し心強かった。
「分かった、百歩譲ってお前の言うとおりだとする。じゃあ、何か?そいつはどこか遠くにある自分の家から、屯所のこの部屋にいきなり現れたって事か?」
険悪なムードで交わされる会話は当たり前だけど、私の話で。
どうにも納得のいかないらしい土方さん(もう勝手に呼んじゃえ)は今にもマヨネーズを飛ばしそうな目で睨んでくる。
開いた瞳孔が発射10秒前を彷彿とさせて怖い。
「そんなこと知りやせんよ」
「あ、あのっ、副長」
「なんだ、山崎。下らねぇことだったら切腹だぞ」
「はい!今調べたところ、屯所のどこにも外部から侵入した形跡はありませんでした!」
「ア゛ア゛?ちゃんと調べたんだろうなぁ?」
「はい、監察班総出で調べたから間違いありませんっ!」
「こりゃ、間違いありませんぜ。俺たち真選組のことはともかく、この年齢で天人を知らないなんてありえねぇでさァ」
「ふむ・・・・・・」
なんだかよく分からないけど。
どうやら副長らしい土方さんは何やら考え込んでしまった。
「なあ、近藤さんよ。どうみる?」
「うん、何が何やらサッパリ」
「「「「「「「「「ぅおおぃ!!」」」」」」」」」
爽やかに答える近藤ゴリラさんに一同盛大にツッコム。
息ピッタリですね。
「で、お嬢さん。行くところはあるんですかィ?」
「え?」
「だから、これからどうするつもりなんですかィ?」
「これから・・・・・・・・・・・・。私、もう帰れないんでしょうか?」
「それはわかりやせん。周りにアンタみたいなヤツいやせんからねィ」
「・・・・・・どうしたらいいんでしょうか。――――――とりあえず、現状把握が第一だよね。結局ここがどこが分からないままだし。アーモンドが何かも分かんないし。言葉は問題なさそう。服は・・・・・・どうかな?見た感じ洋服だよね。でも刀持ってるし。大体江戸?バカげてるにも程があるよ。戦国自衛隊じゃあるまいし。あーもうっ、あの映画に趣味に合わなくて見なかったんだよね。こんな事なら見て置けば―――」
「もしもし、お嬢さん。さっきから自分の世界に飛んでるところ申し訳ねェが、少なくともアンタみたいな格好は見た事ないでさァ」
ちなみに私の格好は特別奇抜なものじゃなく、ふくらはぎまでのジーンズに、ノースリーブを2枚重ねたシンプル極まりないものだ。
ずっと室内にいたから当然裸足。
「・・・・・・わかりました」
覚悟を決めた。
顔を上げ、恐らく実質的最高権力者だろう土方さんに向き直る。
「お願いです。この世界で違和感のない服と、ほんの少しでいいのでお金貸して下さい」
「あ?んなもんどうするつもりだ」
「まずは職捜しでしょうか?元の世界に帰るにしてもどうやって来たか分からない事にはどうしようもありませんし。やはり衣食住の確保が最優先かと。住はともかく、食がないと明後日にも道端で生ゴミになってしまいます」
呑気だろうか?
世の中そんなに甘くない?
でも私、それなりに多芸だし。
まずはここで生き延びなきゃ。
野たれ死んだら元も子もない。
多少よくない道に足突っ込んでも。
「よし、ちゃん!」
「はい!?」
「その非常事態での落着き様、生きる事への執着心気に入った!どうだ、真選組で働かないか?」
「「はあ!?」」
計らずして、土方さんと声が重なってしまった。
「何考えてんだ、このゴリラ」
「え、ゴリラ?今ゴリラって言った?」
「こんな不審者ほいほい置いておけるかっ」
「でもちゃん可愛いし、幼く見えるから街に出たらあっという間にイケナイ世界に連れ込まれちゃうぞ」
「なにがちゃんだ。なにいきなり親しげになってんだよ」
「いいじゃないですか、土方さん。そんな不審者、街に出す方が江戸の安全を守るお巡りさんとして間違ってやすぜ。ここに置いて、妙な動きがあったら切ればいいでさァ」
き、切る!?
な、何を物騒なっ。妙って何。どこからが妙なの?
もうすでにアウトっぽくない?
「お嬢さん、刀は使えるかィ?」
「いえ、剣道は授業で少しやっただけで・・・・・・。刀なんか今日初めて目にしました」
「何か武道の心得は?」
「弓道と、合気道なら」
「家事は好きですかィ?」
「別に好きじゃないですけど、出来ます」
「だそうですぜ、近藤さん」
「よし、ちゃん。ひとまず、女中として働いて見ないか?」
「じょちゅう?」
「お手伝いさんでさァ」
「え、でも・・・・・・」
とんとん拍子で事態が好転して行く。
私は心配になって、土方さんの顔を伺う。
「・・・・・・近藤さんが良いっつーんなら仕方ねー」
近藤さんスゲェ!
「それじゃあ、よろしくお願いします!」
唯一反対してた土方さんからOKが出て。
私は三つ指、はつかなかったけど、深々と頭を下げた。
世の中意外と甘かった。
「おう、よろしくな。俺は真選組局長の近藤勲だ」
「きょくちょう?」
「一番偉い人でさァ」
このゴリラが一番!?
ど、どうしよう。私めっちゃゴリラ連発してた・・・・・・。
「大丈夫でさァ。この人はどっから見てもゴリラにしか見えやせん。俺は一番隊隊長沖田総悟。総悟でいいですぜ」
「・・・・・・・・・・・・副長の土方だ」
「です。どうぞよろしくお願いします!」