05.今は眠って
「さて、ひとまず今夜の寝床だが」
一通り自己紹介を済ませ、(30人以上もいたよ。覚えられないよ)いよいよ、住み込みの準備が始まった。
みんな明日もお仕事だから、他の人達は解散した。
ホントごめんなさい。
貴重な睡眠時間を・・・・・・。
「今使えるところなんて留置所くらいしかありませんよ?」
監察の山崎さんが言う。
「そこで十分だ」
「そんな訳無いでしょ!」
「まあ牢屋はいくらなんでもなぁ。かといって隊士たちと同じ部屋に寝かせる訳にもいかねーしなあ」
「俺の部屋で寝ればいいでさァ」
「良い訳あるか!!」
「なんでィ土方さんのトコよりはずっと安全ですぜ」
「どこがだ!」
「あの、別にそこらの廊下で良いですけど」
ひとまず落ち着くところが出来て、どっと疲れが押し寄せて来た。
もう夜中も真夜中。
そのうち日が昇るんじゃないだろうか
「良くねー!」「良くないでさァ」
「あ、はい。ごめんなさい」
もう何でも良いや。
早く決めてくれ。
何やら口論が続く。
時折、「死ね」だの「S」だの「マヨ」だの「ミントン」だの、変な単語が混じるのを夢うつつで聞いていた。
「ほら、行きやしょう。こんなとこで寝たらどこぞの土方さんにニコチンでヤられますぜ」
「・・・・・・ん。あ、決まりましたか?」
「「「お前のコトを話してたんだよ!」」」
***
「出来やしたか?」
「あ、はい。どうぞ」
結局私の寝床は沖田さんの所になったらしい。
「うーん。やっぱりでけェなー。明日は生活用品の買い出しだな」
沖田さんに借りた寝間着を着た私を眺めてシミジミと言う。
サバ読んだって155cmしかない私にとって、年下とはいえ、男物の着物は大き過ぎた。
寝るだけだから別にいいけど。
「そんな、そこまでしていただくわけには・・・・・・」
「いいんでィ。どうせ土方さんの財布でさァ。・・・・・・それにしても、山崎のヤツ遅ェ」
山崎さんは私の布団を持って来てくれるはずらしい。
監察ってパシリみたいな仕事なのかな?
いや、まさかね。
いくらなんでも可哀相だ。
「―――ィ。おーい、聞いてやすか?」
「っ!?はい?なんでしょう」
「・・・・・・そんなトコにつっ立ってねーで、こっち来なせィ。とりあえずここに座っとけィ」
そう言ってバシバシと自分の隣り、つまり沖田さんの布団を叩いた。
遠慮しようと口を開こうとするが、ニコニコと微笑む沖田さんに、思わず従ってしまった。
一応仮にも上司の布団なのに・・・・・・。
「す、すいません・・・・・・」
「何がでィ。―――その敬語、やめやせんか?」
「え?」
「俺の方が年下だし」
「ですが、沖田さんは隊長で上司ですよ?雇われ保護していただいている身としましては―――」
「そ・う・ご」
「イエですから」
「なら上司命令でさァ。俺のコトは名前で呼ぶコト。敬語で話さないコト」
「え」
「破ったら1回に付き1つ言う事聞いて貰いやす」
真面目な、というか素っ惚けた表情で言う沖田さん。
「はあ?何それ!割に合わない!」
「そうそう、その調子でさァ」
「そうじゃなくてっ!〜〜〜〜っ、じゃあお・・・じゃなくて総悟くんも約束して」
「なんですかィ?」
「私の事は名前で呼ぶコト」
ずっと「お嬢さん、お嬢さん」って気になってたんだよね。
「もちろんでさァ、さん」
「・・・・・・さんって。まあ一応私年上だからいいか。敬語は・・・・・・そのしゃべり方面白いしなぁ。じゃあ、時間がある時私に剣術教えて下さい」
「あ、敬語。はい×ゲームでさァ」
「へ、え?ちょっ」
沖田、じゃない総悟くんの顔が近付いて来る。
大接近した何かが唇に触れそうになった瞬間―――
「すいません遅くなりました!って沖田さん何やってるんですか!」
―――布団を抱えた山崎さんが乱入して来た。
た、助かった・・・・・・?
「チッ」
舌打ちしてるよ、この人。
「な、な、何してんですか!」
「お前こそ何どもってるんでィ。さっさと布団置いてどっか行け」
「あー、山崎さん。ありがとうございました。後は出来るんで早く休んで下さい。明日も早いんでしょう?」
「い、いえ。大丈夫です。運びますよ」
「すいません」
「そんな畏まらなくていいよ。俺たち年近いみたいだし。そんな恐縮されるとこそばゆくって」
すでに敷いてあった総悟くんの布団から1歩ほど離れて新しい布団を敷いてくれる。
あれ?このシーツ、もしかして新品?
「あの、これ」
「ああ、綺麗なシーツが無くって。新しいの探してたら遅くなっちまって」
「全くでィ。用が済んだらとっとと出てけィ」
不機嫌に言った総悟くんの目は完璧に座っていた。
「は、はい!」
山崎さんは一目散に逃げて行く。
でも布団は完璧に敷かれていた。
やっぱり監察ってスゲェ。
ぐぃっ
「ぅやぁ! ???」
突然、地面が動いた。
少し離れたところに敷かれた布団を、総悟くんが思いっきり引き寄せたんだった。
「あ、あの。近くないですか?」
ピッタリくっついた二つの布団。
「はい、2回目〜。何して貰おうかねェ」
嬉しそうにニコニコと笑う笑顔は不思議と可愛く見えなかった。
あ、悪魔の微笑みだ。