08.見え隠れする君の姿
結局さんは夕ご飯が終わるまで眠り続けた。
見張りを言いつけられた俺はミントンしたりお昼を食べたりミントンしたりミントンしたり夕ご飯食べたりミントンしたりしていたが、本当に一瞬も起きなかった。
トイレにも行かず、水分も取らず昏々と眠り続ける。
全く動く気配のないさんを、沖田隊長の部屋の屋根裏から見張り続ける。
土方さんの思い過ごしだと思うけどなぁ。
時間が経つにつれ、言い知れぬ罪悪感が募って来る。
ミントンと飯以外の時間はずっと彼女の寝顔を見ていた訳で、これって俺変態みたいじゃん!
「いい加減その女叩き起こせ」
「土方さんは冷たいでさァ。長旅で疲れてるにちげーねィ。アンタには思いやりというモンは無いんですかィ?」
「いくら疲れていようが、いくらなんでも寝過ぎだ」
「そうですかねィ。俺もこの位寝やすぜ」
「だから寝過ぎだっての。溶けんぞ」
夕食も済んで大分経った頃、沖田さんの部屋に副長と2人連れ立ってやって来ると、部屋で眠るさんを一切気にかける事なく口論を始める。
真面目に気に病んでた自分が虚しくなる。
「ん――――――むぅ・・・・・・」
起きた!
さすがに頭上で派手に口論を繰り広げられては、眠り続ける事は出来なかった様だ。
「むぅーーーっ」
モゾモゾと起き上がり、布団の上で伸びをする。
その猫の様な動作に思わず目を奪われた。
か、かわいい・・・・・・っ。
いや、俺こんなトコから覗いてマジ変態だ。
ホントこの状態はマズいって。
でも目を奪われたのは俺だけじゃ無かった。
下にいる2人も、さんを見たまま固まっている。
「ケンー、今何時ー?」
「「「・・・・・・」」」
寝ぼけているらしく、バタっと体を掛け布団の上に折りながら誰かに時間を聞いている。
ケンって誰だ?
「けーんーちゃーん」
「うるせィ」
「ぃにゃっ!」
いち早く復活した沖田さんが枕でさんの頭を横殴りにはたいた。
「おいおい、お前何やってんだ?」
「何かムカツク。おい、。ケンって誰でィ?」
そのまま枕で頭を押さえ込む。
「い、痛い・・・・・・にゃー、く、苦しいっ!何!?誰!?金縛り!!??」
「いつまで寝ぼけてんだィ」
「ったー・・・・・・あ、沖田さんお早うございます」
「はい、3回目でさァ。しかも名前と敬語のダブルコンボ。さーて、何してもらいやしょうかねィ?」
「総悟、遊ぶのは後にしろ。―――おい、お前」
「は、はい!」
沖田さんに迫られタジタジとなっていたさんは、副長に呼ばれた瞬間、飛び上がり、やや乱れた服装を直し、姿勢を正してその場に正座した。
あーあ、あんなに怯えちゃって。
土方さんはまださんの事を疑ってる。
だけど、あの態度は一般人相手にはキツ過ぎる。
ましてや、彼女は昨日2度も刀を突き付けられている。
「お前、女中として雇われてるんだろう?」
「はい」
「なのに一日中寝こけてるたァどういう了見だ?ア゛?」
「えと、あ、あの。今何日の何時でしょう?」
「さんの来た翌日、午後8時ちょっと回ったとこでさァ」
「―――16時間か・・・・・・寝足りないな・・・・・・」
「「ハァ?」」
指折り時間を数えたさんはすっと目を細めた。
寝足りない?
充分過ぎるくらいだろ。
「あの、すいませんでした。明日から真面目に働きますんでもうちょっと寝かせてください」
「―――さん、アンタどっか悪いんですかィ?」
「・・・・・・?いいえ。寝不足だったんです。レポートに追われて一昨日の朝からずっと起きっ放しで、朝6時からだから・・・・・・って、レポート!提出日!!単位がっ!!!」
ぼんやりと寝不足の原因を話していたさんが突然取り乱した。
「ううっっ、せっかく頑張ったのに・・・・・・、どうせなら手着ける前か提出後に飛んでくれれば良かったのに・・・・・・マジ私の2日間を返して・・・・・・」
一瞬の激昂の後、よよよと布団に泣き崩れた。
昨日も思ったけど、すごいマイペースな人だ。
「まあまあさん、これでも食って元気だしてくだせィ」
1人後悔の渦に飲まれているさんにこれまたマイペース代表みたいな沖田さんが白い塊を差し出した。
朝見たヤツよりヒドい形をしている。
「?」
「腹が減ってると誰でも気が滅入りまさァ。これ食って元気だしな」
「・・・・・・これ食べ物?」
ゆ、勇者だ・・・・・・。
まだ沖田さんの本性を知らないからかな?
気を悪くした沖田さんはおにぎりだと主張する白い物体を鷲掴みにすると、さんの口に押し込んだ。
「むひゃっ!!・・・・・・んぐぐぐっ」
「「!!??」」
無理やり食べさせられたさんの取った行動に、土方さんと俺は目を張る。
沖田さんの押さえ込みを抜けた?
当の本人たちはケロっとしたもので、抜け出したさんはおにぎりを受け取り、頬に付いた米粒を取りながら食べ始める。
「どうですかィ?」
「・・・・・・お米とお塩の味がする・・・・・・」
「塩にぎりですからね。当然でさァ」
「いや・・・・・・純粋にお米とお塩の味であっておにぎりの味じゃないんですけど」
「いやでさァ、それが江戸のおにぎりですぜ」
「まじでか」
いやいや嘘ですよ、さん。
「んな訳ねーだろ」
黙って2人の、主にさんの様子を観察していた土方さんが、もたれていた襖から体を起こす。
と、沖田さんから受け取ったお茶を飲んでいたさんは湯飲みを落とし、土方さんの方へ体を向ける。
淹れたてのお茶が足を濡らしても、反応しない。
遠目でもはっきり分かるくらい、体が緊張している。
急な反応に、土方さんも対応できない。
「チッ・・・・・・。おい、朝飯は6時から8時の間だ。明日から隊士の当番は無くすからな。お前が用意しろ」
「・・・・・・は、はい!」
さんは完璧に土方さんに怯えている――――――。