09.迷い込んだ森の中
翌朝、日の出前。
総悟くんに借りた超爆音目覚まし時計で最悪の目覚めを果たした私はペタペタと廊下を進む。
いやー、あの音はまずいだろう。
低血圧で目覚め激悪な私が一瞬で飛び起きて、止めたくらいた。
隣りで熟睡している総悟くんもすごいけど。
昨日、世にも単純な味のおにぎりを食べた後、お風呂に入って、総悟くんにまた寝間着を借りて(お茶こぼしちゃったから)、簡単に屯所の中を案内してもらった。
と言っても、トイレとお風呂場と炊事場だけだけど。
ひとまずこれだけ分かればお手伝いさん業務に問題は・・・・・・いや、洗濯場が残ってるか。
お掃事もするから明日もう一度案内頼まなきゃ。
台所は意外にも現代風。
台所というより、厨房並の規模だけど。
良かったー、火起こすとか無理だし。
江戸と言っても本当に私の知ってる江戸時代とは違うんだね。
こちらに来たときの服でチャキチャキと準備にかかる。
やっぱりこっちの方が落ち着くというか、あんなダラダラ長い着物姿で火の側に立ったら火事になる。
お米を研いで、うるかす間もなく炊飯器にセットする。
業務用なんて使うのいつぶりだろう。
高校の合同合宿以来かな?
―――・・・・・・だめだ、思いだすな。
「おはよう、早いね」
冷蔵庫(これまたある事にびっくりだ)を覗き込んでいたところ、後ろから声をかけられた。
シンプルな隊服に身を包んでいるのは・・・・・・監察の山崎さん!
良かった、覚えていた。
「お早うございます、山崎さん。お早いですね」
「うん、俺今日の当番だったんだ」
「当番?・・・・・・今日から当番制は廃止すると土方副長がおっしゃっていましたけど?」
「そうなんだけど、1人じゃ大変だろ?勝手も分からないだろうし。手伝うよ」
うわ、やっぱり山崎さんいい人だ!
「ですか、・・・・・・副長さんがお怒りになるのでは?」
「ああ、大丈夫大丈夫。馴れてるから」
馴れって・・・・・・やっぱり怒られるんだ。
でもやっぱり知らないところで30人超のご飯を作るのは大変だから手伝って貰うことにした。
「っ・・・・・・さんは土方さんのこと」
「でいいですよ」
「あ、うん。じゃあちゃん。土方さん、怖い?」
土方さん。
怖いかって?めちゃめちゃ怖いに決まってる。
おひたし用のホウレンソウを湯通ししながら考える。
山崎さんにはお魚を網に並べて貰う。
「怖いですよ」
思い出すのは視界一杯に広がる鋭い刃と、叩き付けられた殺気。
「あの人、いつもあんな感じだから。隊の中でも鬼副長って呼ばれてるくらいだし―――」
正直に答えると山崎さんは慌ててフォローに回る。
やっぱりいい人だ。
「分かってますよ。副長さんの反応が普通です。こんな不審者、よく置いてくれるなって私も不思議ですもん。きっと、沖田さんや山崎さんの方が少数派です」
「そんなことっ」
「このご飯だって皆さん食べて下さるか・・・・・・。ああ、山崎さんが一緒に作ったから大丈夫ですかね」
「そんなことない!真選組にそんな失礼な人はいない!」
仲間思いな山崎君の台詞に、思わず、頬が緩む。
「ごめんなさい。言い過ぎました。でも、それはそれで問題だと思いますよ?」