10.同じ時を過ごすために
山崎さんと2人、配膳の途中、どうやら間に合わなかったらしく隊士の皆さんがゾロゾロと集まって来てしまった。
とは言っても一度に全員が来る訳ではなく、2時間の間にバラけているからなんとか誰にも待って貰う事なく配ることができた。
「山崎さん、もう大丈夫です。先に食べて下さい」
「ちゃんは?」
「? 食事当番は最後って決まってるんですよ?」
「・・・・・・そんな決まりあったっけ?」
あ、これ部活の規則だった。
「まあ、いいからいから」
***
朝一のラッシュが収まった頃、今度はおかわりラッシュが始まった。
「お嬢ちゃん、おかわり!」
「はい!」
「こっちも!」
「次俺!」
「ちゃーん」
あっちこっちから声が上がる。
始めの内は1人1人お茶碗を受け取りに行っていたけど、すぐに追いつかなくなった。
「だーーーっ、おかわりの人はお茶碗持って並んで下さいっ!」
炊飯器の前に列が出来る。
みんな朝から食べ過ぎ。
見てるだけでお腹一杯だ。
食べてくれないかも、なんて一瞬でも思った私がバカだった。
列の中にちゃっかり混じった山崎さんと目が合う。
「ほらね?」と言わんばかりの視線に、笑うしかない。
「これ、台所にあった米?いつもよりおいしいんだけど」
「ああ、時間が足りなかったから調理酒少しだけ入れました」
「ちゃんとみんな食べたでしょ?」
「・・・・・・まだ最大の難関が残ってます」
最大の難関。
すなわち副長土方さんは示し合わせたのか総悟くんと、局長の近藤さんと連れ立って来た。
「お早うございます」
「おう、おはよう!」
「おはようごぜェやす。昨日はよく眠れましたかィ?」
「はい、お陰様で。朝もバッチリ目覚めました」
「そりゃ、あんだけ寝ればそうだろうよ」
極力土方さんと目を合わせ無いよう配膳していく。
土方さんだって「おはよう」返してくれなかったもん。
時刻は7時半。
3人が恐らく最後だろう。
「美味い!こんな美味い朝飯は久しぶりだなぁ総悟」
「朝飯というか、食堂の飯が美味いのが初めてですぜ、近藤さん」
「・・・・・・あ、ありがとうございます?」
今まで一体どんな食生活を送ってたんだろう?
ご飯が美味しくないのって隊の士気に関わったりしないのだろうか?
ブチュ ブチュ ブチュ―――
ふと、耳が妙な音を拾い、そちらに目をやると信じられない光景が目に入った。
土方さんがマヨネーズを高々と掲げ、ご飯に何か恨みがあるかのようにぐるぐるととぐろを巻いていた。
ご飯だけじゃない。
お皿と言うお皿すべてにマヨネーズが積もっている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの、お口に合いませんでしたか?」
恐る恐る尋ねてみるが、ギロっと一睨みされただけだった。
ぃに゛ゃーー、やっぱり怖い・・・・・・。
お前が作った物なんかまともに食えるかって声が聞こえたのは気のせい?
それともあれか?何が混ぜられているか分かった物じゃないからマヨネーズで覆っているのかな?
マヨネーズに解毒の効用はありませんよ?
「土方さんはマヨネーズしか食べられない特異体質なんでさァ。それじゃああんまりにも体に悪いんで他の食材もマヨネーズで誤魔化してるんでさァ」
と、特異体質・・・・・・・・・・・・。
しかもマヨネーズだけ・・・・・・?
あの、一時期取り沙汰された、3食アイスで生きてる人とか土食ってる人と同類?
「ちげーよ。マヨネーズ何にでも合うんだよ。俺ァマヨネーズさえあれば何でも食うぜ」
それじゃ、なんですか。
ご飯の味は端から眼中にないって事ですか。
まあ、マヨネーズ崇拝者の味覚なんてどうでもいいけどね。
ちなみに私はマヨネーズが大っ嫌いだ。
ちょっとでも付いた物は拭き取ったって食べられないし、本当なら同じお皿に乗っているのも耐えられない。
昔、まだ小学生だった頃。
ある日給食で出たマカロニサラダがどうしても食べられなかった。
小皿一杯に盛られたマヨネーズで和えられた麺がもうキモくてキモくて。
でも当時の担任がもう嫌なヤツで、食べ終わるまで席を立たせないと言う体罰まがいの手段に出た。
昼休みが過ぎ、午後の授業が過ぎ、放課後になり、いい加減帰りたくなり無理やり飲み込んだ私は見事胃の内容物をブチまけた。
ムカついたから、担任の机の上で。
その時広がっていた教材(みんなの日記帳だったと思う)はもちろん、布張りのイスにもガッツリかかり、しばらく臭っていた。
ざまぁみろ、と言いたい所だけど、それ以来私はマヨネーズを口にすると反射的に戻す体質になってしまったから痛み分けだ。
いや、後遺症が残った分私の負けか?
あ。思い出したら、てか土方さんのご飯見てたら気持ち悪くなって来た。
「ちゃん、顔色悪いよ?」
「あ、山崎さん・・・・・・」
「やっぱり朝抜きで配膳はキツいよ。今の内に食べちゃいな」
「いえ・・・・・・」
食欲が無いんです。
「何、まだ食って無いのかィ?一緒に食べやしょう」
「いえほんとに今は・・・・・・」
「――――――罰ゲーム何回分溜まってると思ってるんでィ」
「・・・・・・・・・・・・あー、あの、出来れば別の機会に・・・・・・」
「ダメでさァ。おい、山崎。の分の飯持って来い」
「はい」
「え、ちょ」
「いいからいいから。ちゃんは座ってて」
いや、よくないから!