11.新しい世界へ
「ちゃん、この後時間ある?」
総悟くんに無理やり朝食を詰め込めさせられ、こみ上げてくる何かと戦いながら食器を洗っていると、相変わらず手伝ってくれている山崎さんに話しかけられた。
「ありまくりますよ?まだ全っ然勝手が分かりませんからね」
いや、考えれば色々する事はあるのだろうが、いかんせん昨日の今日(寝こけてた1日は抜かして)では何から手をつけていいのか分からない。
まず、何はともあれ建物の間取りを把握するのが最重要課題じゃないかと思う。
「今日、俺非番だから。良かったら江戸の町、案内するよ。いろいろ必要なものもあるだろうし。服とか」
「いいんですか?せっかくのお休みに」
「うん。特に予定もないし、色々不便だろ?」
「はあ」
確か総悟くんも同じような事を言ってたような気がする・・・・・・と思い出したときにはもう山崎さんはすっかり出かける気で話を進めていた。
***
初めて入る部屋へ連れて行かれる。
まだ総悟君の部屋と、最初に迷い込んだ大部屋と、食堂の場所しか分からないんだけどね。
箪笥をひっくり返して出してきたのは地味な色合いの着物。
時代劇でいう、町人のおばさんが着てそうな色。
出来たら呼んでね、と言い残して山崎さんは障子の向こうへ消えていった。
とりあえず、来ていた服を脱ぐ。
着物って下着着けないって聞いた事あるけど、ノーブラは心もとないから着けたまま。
ノーパンなんてもっての他だ。
昔の人は偉大だと思う。
合わせは胴着と一緒でいいのかな?
帯び固いなーって後ろでどうやって結ぶんだろう?
ちょうちょでいいのかな?
ていうか、これ、でかくないか?
「ちゃん?大丈夫?」
「大丈夫じゃありません!」
「え!?」
「帯が結べません〜。それに大きすぎてこれじゃあ引き摺っちゃうよ・・・・・・」
結局一から着付けて貰う羽目になった。
最初からこうして置けばよかったよ。
服買うといっても着物なのかなあ。
・・・・・・正直、嫌だ。
息はし辛いし、ぞろぞろ長いし、色は地味だし。
***
「やぁ〜まぁ〜ざぁ〜き〜〜〜。どーこ行くんでィ」
屯所を出ようとした時、凄まじい形相の総悟君が追いすがって来た。
「総悟くん、顔が面白い事になってるよ?」
「ー、買い出し行こうって先に行ったのは俺ですぜ。なーんで山崎なんかと出かけようとしてるんでィ」
もうスピードで追いついてきた総悟くんはその凄まじい表情を私に向けるとがばっっと背後霊の様に背中に圧し掛かってきた。
あ、頭の上に顎が当たって重い。
「あ、すいません。でも総悟くん、今日お仕事でしょ?山崎さんはお休みらしいから・・・・・・」
「その着物、山崎の目利きかィ?サイズ合ってねーでさー」
「仕方がないじゃないですか。これが一番小さいのだったんですよ」
「色も似合ってねェでさァ。山崎、お前センスねーな」
ああ、やっぱりこれは標準じゃないんだ。
すみませんねぇ、ちっちゃくて。
「だからサイズが無かったんだって言ってるだろ」
「ああ゛?なんか言ったかィ」
「いいえ!滅相もないです!」
「じゃ、俺も行くから」
「はい!って、は?」
「そ、総悟くん。お仕事は・・・・・・?」
「ついでに見回りもすればいいでさ〜。丁度巡回コースでィ」
隣で(商店街は沖田さんの担当コースじゃないじゃないっスか)と山崎さんが呟いていた。
「じゃ、とっとと行きやしょう。開店直後なら空いてまさァ」
いやいやいやアンタは副長に見つからないうちに出かけたいだけだろっていうか一緒にいたら殴られるのは俺なのに とまだ呟いている。
なんだか一気に隊内における2人の位置が見えてきたよ。
「山崎ィ、言いたい事は口に出して言えィ」