12.夢のような現実



屯所を出ると、そこには何とも言えないシュールな光景が広がっていた。

道行く人の服装は基本的に和服。
町並みも、時代劇のセットみたい。
お兄さん2人従えたご老公とか、小銭投げる罰当たりなおっさんが出てきそうな感じ。
それだけなら、タイムスリップしちゃったーあははんて笑えるけど(笑えない)明らかに自動車に見える乗り物とか、恐らく信号機の役割をしているんだろう小屋(鳥小屋みたい)とか、明らかに自動販売機にしか見えない箱とか・・・・・・挙げていったらキリが無い。

微妙に私の元居た世界ともシンクロしていて気持ち悪い。

キョロキョロと辺りを見渡していると、ふと、視界が暗くなった。

ナニカが頭上を横切り、日の光が遮られた。
飛行機まであるのか、と見上げるとそこで私は今度こそ固まってしまった。


あれはおかしいだろう?



さん、口開いてますぜ」


総悟くんのからかう声に意識が引き戻される。


「・・・・・・ぁ、・・・・・・ぅ?」

「どうかしましたかィ?」

「あ、あれ・・・・・・」


見上げた空を横切っていたのは飛行機や飛行船じゃなく、何ていうか、空飛ぶ船?
船っていうか戦艦っていうか、まあ船か。

ありえない。
だって明らかに空を飛ぶ構造じゃないよ、あれ。


「あれは船でさァ」

「船は水上を走るものだよ・・・・・・」

「空も飛びますぜ?」

「いやいやいや、飛ばないって。どんな構造になってるんだろ、マジ気になる・・・・・・」

「天人の技術でさァ。さんのトコでは船は空飛ばないんですかィ?」

「飛行機やロケットは飛ぶけど・・・・・・ねえ、天人って何?」

「町歩いていれはいくらでもいるよ。取りあえず、歩こう」


山崎さんと総悟くんの2人に簡単な説明を受けながら町を歩く。
総悟くんがある事無いこと言って山崎さんが訂正を入れる感じだ。


「あれは信号機と言いましてね、あの丸い窓の色で今日の運勢が決まるんでさァ」

「違いますよ」


うん、それは流石に分かるよ。


「ああ、あれは自動販売機と言いましてね、中に小さい天人が入ってて、押したボタンのジュースを出してくれるんでさァ」

「まじでか!?」

「嘘ですよ!」


ええー、そういう映画あったのになぁ。


「あれは原チャリと言いましてね、その気になれば空も飛べると言う優れものでさァ」

「ま「沖田さん!」


「なんでィ、山崎。さっきからうるせーぞ」

「さっきから何嘘ばっか教えてるんですか!ちゃんが信じたらどうするんですか!」

「いや、流石に信じないよ・・・・・・」

「ひでーや、さん。俺の言うこと全部疑ってたなんて」

「え、あ、いや」

「ああ、あれが天人ですぜ」


もうっ、なんなのこの子!
ホントに目をウルウルさせて言うものだから、軽く焦った私完璧バカじゃん。


半ばやけくそになりながら示された方向を見やる。


「・・・・・・・・・・・・仮装?」


怪しい。
怪しすぎる。

私なんて目じゃないくらい変な生き物が往来を闊歩していた。

いや、だってあれ変だろ?
頭にタコ乗ってたり、素でタイガーマスクだったり、頭が鳥だったり。

その癖みんな直立2足歩行してる。

首から下は人間に進化出来たのにどうして頭は進化前なんだ?
鳥やタコに至っては哺乳類じゃないじゃん!


「・・・・・・江戸すげぇな・・・・・・」

「そうですかィ?まあ気に入って貰えたなら何よりでさァ」


いや、気に入ったというか・・・・・・。
まあ、面白くはあるかな?


「・・・・・・何、山崎さん?」


さっきから驚く私を興味深そうに見ている山崎さんの視線が痛い。


「いや・・・・・・。初めて天人を見た江戸の人もそんな反応だったのかなぁと思って」

「・・・・・・?ずっと彼らと共生していたんじゃないの?」

「天人が初めて江戸にやって来たのは20年以上前でさァ。俺ァ、まだ産まれてませんでしたがね」

「俺もまだ小さかったし、その頃はまだ田舎にいたからね」


20年前ね〜。
私はほけほけと謎の単語の羅列をしていた頃かな?

山崎さんの講釈を簡単に略すと・・・・・・早い話、黒船来航だね。
江戸時代ペリーが行きなり黒船引き連れてやって来て、無理やり開国を迫った頃に話が酷似している。

ここはすでに開国済み。
私のいた世界同様、なぜか国の実権は来訪者に持って行かれたらしい。

文明開化の過渡期が、あのシュールな町並みを作り出しているのか。


「・・・・・・それにしては文明が進化し過ぎというかでも侵略して来た方の技術が高かったらこうなるのか」

さん?」

「そのわりには服装とか家並みは不便そうだし」

「おーい」

「中途半端だなぁ―――って!何!?」


「何ブツブツ言ってんでィ」


いつの間にか思考が声に出ていたらしく、さらに私を呼ぶ声も聞こえていなかったらしい。
私の悪い癖だ。


「だからって殴らなくても」

「殴るってのは拳を顔面がめり込むくらい叩き込む事を言うんですぜ。何なら実演しやしょうか?」

「結構です」

「山崎で」

「えっ!俺!?」


山崎さんでの実演は丁重にお断りして、シカトしていたことを謝っているうちに目的地に到着した。



『大江戸デパート』



「・・・・・・うん。もう驚くのはやめよう。私は何も感じない。何にも疑問は抱かない。むしろ私の常識はここでの非常識だと思え」

ちゃん、何やってるの?」

「国の宗教ですかィ?」


「違います。マインドコントロールです」




後書戯言
江戸のシュールな町並みが大好きです。
06.11.25
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