14.マイテリトリー
「真選組・・・・・・?」
買い物を終え、屯所に戻ると門に掛かる看板が目に入った。
「どうしたの、ちゃん」
「しんせんぐみ・・・真選組・・・・・・か。うん、そうなんだけどさ・・・・・・」
「どうしやした、さん。また思考が垂れ流れてますぜ」
「あれー?こんな字だっけかなぁ・・・・・・」
記憶にある字と違う気がする。
「字がどうかしやしたか?」
「うん、歴史で習ったのと字が違うような違わないような・・・・・・まあ歴史の授業はもう忘れつつあるから確かじゃないけどね・・・・・・って、ああ、そっか!」
「何でィ」
「時間だけじゃなくって、世界が違う事を忘れてたよ」
言葉も通じるし、「えど」だし、「しんせんぐみ」とかいうからついついただのタイムスリップかと勘違いしてしまう。
いやそれだって重大な問題だけどね。
ここがどこだか知らないけど、タイムどころかワールドまでトラベルしてしまったとなれば、このメカニズムを解明して発表すればノーベル賞ものだろう。
私はアインシュタインを超える!
「「・・・・・・・・・・・」」
「? どうしたんですか?早く入りましょうよ」
私はなんとも形容しがたい表情で立ち止まってしまった2人を急かして門をくぐった。
***
「もしもし総悟くんや」
「なんだいさんや」
「私は部屋へ案内してって言ったんだけど」
食材を台所まで運んでくれると言う山崎さんと別れ、私は総悟くんに私の部屋になるところへ案内してもらうことになった。
案内された先は、私が丸1日寝こけていた部屋。
つまり総悟くんの部屋だ。
「ここがさんの部屋ですぜ」
「いやいやいや、まじですか」
「いやいやいやいや、まじですぜ」
「いやいやいやいやいや、それは色々問題が」
キリが無い。
「何が問題なんでィ」
「お互い問題ありじゃないんですか?ただでさえどこの馬の骨とも知れない女を泊めていいんですか?」
「昨日泊まったじゃないですか」
「あれは台風直撃による大雨洪水警報で避難勧告が出て避難所で顔も知らないご近所さんと雑魚寝しました的なハプニングだと思ってたんだけど」
「どんなハプニングですかィ?」
「だからー大雨洪水警報でー「いやそういう意味じゃなくって。・・・・・・さん俺と一緒の部屋は嫌ですか?」
「うん、無理―――あ、いや総悟くんが嫌なんじゃなくってね・・・・・・むしろ総悟くんが嫌なんじゃないの?」
いくら良くしてくれるといっても見ず知らずの女の子を部屋に住まわせるのは年頃の青少年としていかがなものか。
色々とのっぴきならない事情もあるだろうし。
つーかプライバシー0ですよ?
隠しているあんな物やらこんな物をいつ発見されるものか分からないんですよ?
果たして私の元いた世界で自室に他人を住まわせる事が出来るだろうか。
否!絶 対 無理!
!
「やっぱ俺が嫌なんですねィ」
「だから違うってば!」
酷く落ち込んだ様に見える総悟くんに、慌てて否定する。
色素の薄い美少年顔で憂いを帯びた表情をされると言い様のない罪悪感に駆られる。
斜め下を見つめて揺れる瞳がこちらを見てくれない。
「まあ、冗談はおいといて」
「はぁ!?」
寸前までの儚い表情は幻だったのだろうか。
一転して飄々ととぼけた無表情へ変化した。
呆気に取られる私を尻目に、ずかずかと部屋を横切り、奥にある襖へ向かった。
「何ぼーっとしてるんですかィ?こっちですぜ」
・・・・・・もう何この子!
***
総悟君の部屋を横切って、襖を開けた向こうは小さな部屋。
4畳ほどだろうか?
4方を襖に囲まれた小さな部屋は、一応掃除はしてくれてあるらしくカビやホコリの臭いはしなかった。
ただ、窓が無い所為で、暗い。
そう、窓が無い。
「・・・・・・座敷牢?」
部屋を見た感想はこれだった。
実際に見たことは無いけど。
「人聞き悪いでさァ。せめて物置と言って下せィ」
「尚悪いよ」
座敷牢は飽くまでも中に入るのは人だけど物置に人は入れない。
中に入るとなるほど。
押入れの中のような圧迫感があった。
まあ元々素性も知れないような女に部屋を貸してくれるだけでもありがたいので文句は無い。
「ちなみに、この襖の向こうは土方さんの部屋なんで」
「はいっ!?」
さらりと告げられた事実に、思わず荷物を取り落としてしまう。
「おーい、さーん」
ひらひらと目の前で手が振られる。
「・・・・・・あの、総悟くん・・・・・・い、いま、なんと?」
「だから隣の部屋は、土方さんですぜって言ったんでさァ」
前言撤回。
「な、なんで?」
「んー、なんかさんの部屋俺んトコにしてくれって言ったらせめてここにしろって土方の野郎が」
「なんでそんな事言っちゃったの」
「まあ窓はありやせんがここ開けておけば十分明るいし、つーか寝るだけだからどこでも大丈夫だろィ」
「ええもうここ以外ならどこでも寝れるんでどっかその辺に放り出してくれませんかねここ以外で。もう廊下とか縁の下でいいですよここ以外で」
「それは出来ない相談ですぜ。因みにこっちの襖は近藤さんの部屋で、こっちは空き部屋でさァ。ここ通り抜けると厠へ出るんで夜通るかもしれませんがそんときはよろしくお願いしまさァ」
何がよろしくですか。
何この重圧感溢れる部屋の配置は。
局長・副長・隊長に囲まれて一体どうやって過ごせと言うのだろう。
しかもトイレへの通り道らしいですよ、ここ。
あまりといえばあんまりな条件に頭に駆け巡った千の苦情は、結局1つも口に出す事は出来なかった。