15.変わる環境、変わらない態度
が住み着いてから1週間が経った。
信じられないような寝汚さを発揮したのはあの1日だけだったようで、翌日からの彼女の働きようは文句のつけようが無い。
30人を超える隊士たちの食事を用意し、洗濯をし、屯所の中を掃除する。
それだけでなく、この僅かな期間で隊士たちの名前と顔を一致させている。
そのうちそれぞれの出身に家族構成まで網羅する日も近いのではないだろうか。
仕事振りに文句は無い。
だがその文句のつけようの無さが、かえって鼻につく。
***
「失礼致します」
「おお、ちゃん。どうした?」
会議中、というわけではないが、近藤さんと総悟と会議室で雑談をしていると廊下から呼ぶ声がした。
「お茶をお持ちしました」
「気が利きやすねィ。丁度喉が渇いたところでさァ」
「おお、悪いなちゃん」
「いいえ、お疲れ様です」
茶の配り方1つ取ってもなぜか気に食わない。
こいつは必ず、その場にいる人間の地位を見分け、その順に茶を渡す。
今なら近藤さん、俺、総悟の順だ。
それはうちの様な組織では重要なことで、彼女の対応は歓迎されるべきものだ。
それなのに、何かが引っかかる。
「失礼致しました」
茶菓子の入った皿を置くと早々に退出する。
「いやぁ、ホントにいい子だよなーちゃん。器量はいいし、飯はも美味い!それにゴリラとか言わないし」
「姐さんにそう伝えておきやす」
「え、いや、違う!違うよ。これは断じて違う!!そういうんじゃなくて、あれだ、ほら!な?分かるだろ総悟」
「さあ、俺には何のことかサッパリ」
「・・・・・・総悟君、何か欲しいものある?」
「副長の座」
「総悟ォォオ!!」
「あーあーうっせーなァ。せっかくの茶が不味くなりまさァ」
「お?どこ行くんだ?」
「美味い茶を淹れてくれる人のとこ」
湯飲みを持った総悟は早々に襖を開けて出て行く。
行き先はきっと―――
「ちゃんの所かな?」
そう、きっとあの女のところ。
がここへやってきてから、暇を見つけては、というか忙しくても、総悟はあの女の側にいる。
総悟が見当たらない時はを探せ、というのが早くも隊内に定着しつつある程だ。
「さあな」
「なんだよトシー、ちゃんのどこが不満なんだ?」
そっけなく返した言葉が不満だったのか、それとも俺のあの女への態度が気に入らないのか、近藤さんは少しだけゴリラ面を引き締めて聞いてきた。
「不満って言うか、俺にはあの女があんなに受け入れられている事の方が不思議だ」
***
夕食時。
相も変わらずあの女は忙しなく動き回っていた。
「さん、一緒に食べやせんか?」
「ううん。私は後でいいよ「ちゃーん!おかわりー」あ、はーい!ね?後でゆっくり食べるからさ―――うんだからその掲げた凶器をしまってください」
「はい敬語ー、罰ゲームでさァ」
「うあー。もうそれ止めにしようよ・・・・・・私ばっかり不利だよ」
は隊士たち食事を取る事は無い。
忙しくて取る暇が無いのだろう。
それでも総悟は毎食声をかけ、振られている。
声をかけてきた隊士の方へ向かう途中、俺の前を通る。
俺を視界に入れた瞬間、顔が強張り、通り過ぎる時全神経が向けられているのが分かる。
これだ。
俺がこの女が気に入らない原因。
隊にすっかり溶け込み、怪しいそぶりなんて欠片も見せない。
一応見張らせている山崎の報告によれば異世界から来たというとんでもない身の上にも嘘はないようだ。
もっとも監察の目を誤魔化せるような役者じゃなければ、の話だが。
だが、俺に対するバリバリ警戒していますというこの態度が解せない。
***
「はっはっは!そりゃ、トシお前がいっつも彼女のことを睨んでるからだよ」
「・・・・・・それはあの女が挙動不審だからだ」
夕食後、近藤さんの部屋でちらっとそう洩らすと豪快に笑い飛ばされた。
「俺ァこんなマヨに女が寄ってくることの方が不思議ですけどねィ」
誰もいなかったはずの入り口から総悟が音もなく入ってくる。
「うっせーよ!って総悟お前なんでこんなとこにいんだよ」
「いやぁ、たまたまさんの名前が聞こえたんでねィ。またどっかの人間不信が良からぬことを考えてるのかと思ってね」
「誰が人間不信だ」
「だってそうでしょう。ただでさえ慣れないところで緊張してるってのに始終あんな殺気向けられてさんが可哀想でさァ」
「・・・・・・・・・・・・」
「ま、さんの土方さんへの警戒もちょっと異常ですけどねィ」
「!・・・・・・総悟、お前何か知ってるのか?」
「・・・・・・さあね。精々これ以上嫌われない様にしてくだせィ。ま、俺ァ別に土方さんは警戒に警戒を重ねていっそのこと嫌悪の対象になっちまえば良いと思ってるんですけどねィ」
憎たらしい顔でそういうと、一体何をしに来たのか、部屋から出て行った。