16.暗雲に覆われる陽だまり


「今日も精が出やすね〜」

「そう思うなら手伝ってよ」

「嫌ですぜ〜。なんで俺がむさい男の洗濯物なんざ畳まにゃならんのです?」

「キミもそのむさい男の一員だってことをお忘れで無いかい?」


夕方、日が落ちる前。
さんは大量に干された洗濯物を取り込む。
そして中庭に面した一室でそれらを畳んでいく。


「今日はどこですかィ?」

「んーっと、4、5、6番隊かな?」

「何でィ。俺のはねーのかよ」

「昨日洗ったばっかりでしょ」


大所帯の洗濯物を一日で終わらせるのは無理だ。
さんは隊毎に日替わりでそれらを処理している。
洗濯だけでなく、部屋の掃除や布団干しなど。
ここへ来て僅か1週間やそこらしか経っていないというのに、彼女は仕事内容と組織編制を聞いてすぐにローテーションを組みその通りに仕事をこなしている。
どの隊からも不平が出ないよう、必ず1日に手を付けない隊が無いような割り振り。

その気の使いようとそれを実現する頭のよさには感服する。


「総悟くん仕事は?」

「休憩中でさァ」

「あっそ。じゃ、タオル畳んで」

「休憩中だって」

「こうやって四つ折するだけだから簡単でしょ?」

「・・・・・・へー、わかりやした」



「・・・・・・・・・・・・やっぱいい」

「何でィ。隊長自ら手伝ってやってんのに失礼な人だなァ」

「なぜタオルを縦に折る?確かに四つ折だよ。四つ折って言ったけどどうして縦長?一体どこでこんな奇妙な折り方したタオルを目にした?」

「いやー、俺ァどうも不器用なもんでねィ」

「めっさ綺麗に端は合わさってるけどね」


こうして家事に励むさんの隣で無駄口を叩く時間がどうしようもなく心地いい。

文句を言いながらも、必ず返事を寄越し、時に辛らつな言葉を交えながらも、それでも手は忙しなく動いている。


この世界の事を何も知らない女。
真選組のことも、俺達の事も、本当にまっさら。
こちらの言うことを全て吸収し、しかし100%信じているわけではない矛盾が面白い。

何を言っても彼女は信じるだろう。
でもきっとウソだとわかっても、それをあっさり受け入れるのだ。


その矛盾が、きっとこの抗いがたい心地よさの正体。



「!」

「ん?どうしやした?」


引っ切り無しに洗濯物を畳んでは積み上げていた手がぴたっと止まる。
のんびりとした空気は一変し、さんの体に鋭い緊張が走る。

全神経が、中庭と反対側の襖の向こうに向けられている―――。


(チッ、またか)



彼女の側は心地よい。

異世界から来た事だって、ウソじゃないだろう。
例えウソでも構わない。

例えば、俺は彼女の側で獲物を手放して熟睡できる。

それくらい彼女のことは無害だと思えるのに。


あいつが絡むとその様子が一変する。



さ―――」

「おい!総悟いるか!?」

「っ!」

「――――――チッ



開け放たれた襖から現れたのは土方さん。
相当探し回ったのか額に青筋が浮かんでいる。


「何ですかィ。襖は静かに開けてくだせィよ。行儀悪いですぜ」

「てめーにだけは言われたくねーよ」

「おや、なぜですかィ。こんなに品行方正だってのに」

「バズーカで襖自体ぶっ飛ばすヤツが何言ってやがる!」

「過ぎたことは忘れやした。何の用ですかィ?」

「昨日の書類の件で話しがある。ちょっと来い」

「なんか不備でもありやしたか?部下の不始末はてめーでつけろィ」

「テメーの不始末だろ!やるかコノヤロー!!」


売り言葉買い言葉。
いつものように俺の書類仕事に難癖つけに来た土方さんをおちょくってやると、いつものように抜刀し、冗談とも本気とも分からない態度でそれを構える。
それのバズーカで応戦する俺。

俺達はいつでも本気だ。

しかしいつものようなドンパチには発展しなかった。


土方さんが刀を構えた瞬間、小さく引き攣った悲鳴がすぐ側であがる。

見ると顔色を無くしたさんが硬直していた。


さん?」

「―――」

さーん、おーい」


土方さんは放っておいて、放心した彼女の頬を思いっきり横に引き伸ばすと、「いひゃいいひゃい」とようやく我に返った。


「どうしやした?」

「〜〜〜〜〜〜頬っぺたが痛いです・・・・・・」

「いやそうじゃなくて」

「・・・・・・・・・・・そろそろ夕食の支度に行ってきます」


少し赤くなった両の頬を押さえ、まだ心ここにあらずといった様子でフラフラと立ち上がり厨房へ行ってしまう。


(洗濯物、途中なんだけどねィ)


「あーあー、土方さんの所為でさんが行っちまったじゃねーですかィ。どーしてくれるんでィ」

「アホ、お前ェ仕事サボってこんな所で逢引たァなめるのもいい加減にしろよ」

「人聞き悪ィですぜ。ちゃんとお手伝いしてやした」

「お前の仕事は洗濯物畳みじゃねー!」


それはそうだ。

途中で放置された洗濯物の山へ一瞥をくれてから、渋々と重い腰を上げる。


ったく、書類くらい適当に何とかしておけってんだ。


「それにしても土方さん、嫌われやしたねィ」

「ああ゛?」

さん、足音だけで土方さんだって分かったみたいですぜ」

「ほぅ・・・・・・足音だけで、ね。そりゃいい耳持ってんだなァ」

「さあね。マヨ臭かったんじゃねーですかィ?」

「匂うか!」

後書戯言
親子みたいな夫婦みたいな2人。
総悟は手伝いより、ただ周りに纏わり付いているのがいいと思う。 
07.01.02
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