20.おねがい副長☆
副長がちゃんに手を出そうとした日(?)以来、ちゃんの異常な怖がり様は多少軽減された。
あくまでも多少、だが。

刀が怖い、それも副長限定でと言うのが理由だったそうだ。
副長からそれを聞いたとき、意外といえば意外な理由に驚いたものだ。


ちゃん、もう大分慣れた?」

「はいっ、このラケットっ、振りやすいですね!」

「だろ?それ最先端技術を使った――って違うよ!ここの生活にって聞いてるの!」

「あ、そっちですか。はいおかげさまっでっ大分慣れましたよっ。こうしてっ息抜きするっ時間もっ取れるくらいにはっ」


ちっちゃい「つ」が多くて読み難い。
じゃなくって。
今俺達は屯所の庭でミントンをしている。

洗濯物が乾くまで時間が空いたと言う彼女を誘ってみたら、「ミントンて何?」と聞かれた。
彼女の世界では「ばどみんとん」と言うらしい。


ちゃん上手いね、運動神経いいんだね」

「そうですか?大学でバミトントンの授業取ってましたから!」

バミトントン??」

「あ、違うバドミントンだ。羽根突きで1単位くれると言う良心的な授業でした」


しゃべりながらもシャトルはかなりの早さで2人の間を行き来する。
趣味でやる分には軽い運動だが、競技レベルのミントンはかなりハードだ。
決して良いとはいえない足元にも拘らず、ちゃんは軽やかにシャトルを追い、正確にこちらに打ち返してくる。
ネットを張って試合をしているわけじゃない、いつまでも続くラリーを楽しみながら何気ない話をする。


「そういえば、ちょっと伺いしたい事があるんですがっ」

「なに?ていうか、敬語いいよ」

「あ、うん。あのねっ、私ちょっとこの世界のことっ調べたいんだけどっ」

「うん」

「だから、書庫とか見てもいい?」

「別に大丈夫だと思うけど」

「重要書類とか見ちゃマズイものとかあったりしない?」

「ああ、そういうことか。それなら副長に聞いてみれば―――「山崎ィイイ!!テメェ職務中に何やってんだァァアア」―――うわぁあああ!!!ご、ごめんなさーーい」

「―――え、あ、あれ?」



***



お昼も過ぎた空き時間。
山崎さんに誘われミントン(バミトントンの事らしい)で遊んでいたら土方さんが鬼の形相で走ってきた。

今、私の10メートルほど向こうの木の下で山崎さんがタコ殴りにあっている。

山崎さんはいい人だけど、助けるべきか・・・・・・いやでも怖いし。
しかし切腹だと叫びながらなぜ馬乗りで殴っているんだろう?
やくざだ。
まるヤの職業の方に見える・・・・・・。


あ、山崎さん落ちた。


頬を引き攣らせて一連の出来事を眺めていると、一通りボコって気が済んだの土方さんがこちらを振り向き歩いてくる。


(うあー見てる見てる見てるぅ。どうしよう私もボコられるのかな?タコ殴りの刑!?一応女の子だから顔はやめて欲しいってか殴るられるのとか嫌だなー)


「はぁ―――別に殴ったりしねーよ」

「げっ――(また声に出てた)」

「何が『げ』だ。―――で?何を俺に聞くんだ?」


ラケットを盾のように構え、防御の姿勢を取る私を土方さんが威圧的に見下ろす。
本人がどんなつもりかは知らないが、身長差と開いた瞳孔が相乗効果を生み出し怖さ倍増どころか3乗だ。


「あの、書庫を見たいのですが・・・・・・」

「あ゛あ゛?」

「(ひぃっ)あ、あの、ちょっとずつこちらの生活にも慣れてきて、そろそろこの世界のことを色々知りたいな〜と好奇心が首をもたげてきまして、ええそれはもうにょっきにょきと。一般常識的なことは山崎さんのお陰で大分分かったんですが、いつまでもお手を煩わせるわけにも行きませんし」

「だーーっ、分かったからもう少しゆっくり、落ち着いて喋れ!」

「はいっ!」


緊張のあまり早口になると、途中で遮られた。
当たり前だ、自分でも何を話していたのか分からない。


「えっと、書庫が見たいんです」

「見りゃいいじゃねーか」

「え・・・・・・あの、あそこって部外者が自由に出入りしていいようなところですか?」


屯所の真ん中辺り、実は私の部屋の近くにある書庫は、軽く引いた医務室の50倍くらい雑然とした恐ろしい空間だ。
この屯所には整理整頓が出来る人間はいないらしい。
書籍も書類もファイルも全部文字通り放り込んであった。

本とか、レポートとか、無意味に順番に並べるのが好きな私は、手始めに掃除でもしようかと中に入ってみた。
たまたま手にとった書類には「機密」だとか「持ち出し禁止」だとか重々しい単語が赤で記してあり、勝手に見ちゃダメなのかも、と諦めて引き返したのだが。

「見りゃいいじゃねーか」って。


「別にもう部外者でもねーだろ。好きに見ていいぞ。ただ持ち出し禁止とかやばそうなヤツは屯所から出すなよ」

「そんな簡単に・・・・・・」

「あ?面倒臭ェヤツだな。俺が良いって言ってんだから良いんだよ」

「はい!ありがとうございます!!」


やった!
本当は一々貸し出し許可とか取らなきゃいけなかったり、書庫に入るのに誰かについて来てもらわなきゃいけないのかと心配していた。

それがこんな簡単に許可が降りるなんて。

ついでにアレも頼んでみようか・・・・・・


「あのーついでと言ってはなんですが、もう1つお願いしてもいいですか・・・・・・?」

「何だよ」

「パソコンが欲しいんですけど」

「は?」

「その、少し当たってみたい心当たりがありまして・・・・・・先立つものが無いのでお給料前借りしたいんですが・・・・・・ダメですか?」

「んなの屯所の使えばいいだろ?」

「だ、ダメですよ!私用で、しかも隊士じゃない私が使うなんてもってのほかです!電子情報は使いようによっては危険なんですよ?もっと危機感を持つべきです!もし万が一にでも情報漏洩が起きたらどうするんですか!私切腹なんてしたくありませんよ、そんな痛そうなの」


鎖国解禁20年(山崎さん情報)。
地球人のセキュリティー意識は低いらしい。
特に、真選組の人たちはおバカ、じゃない、ちょっとどこか抜けてる・・・・・・でも無くってのんびりした人が多いから・・・・・・。

屯所には2つパソコンがある。
1つは局長の私物。
もう1つは監察方の仕事用だ。
土方さんの言う、屯所のとは後者。

私がそんなのを使うなんてもってのほかだ。
私よりも彼等が嫌だろう。

それにこれから私が調べようとしている事は・・・・・・・・・・・・。


「わーったよ、じゃあどっかで余ってるの山崎に探させてみる。無かったら前借でも出世払いでも好きにしろ」


土方さんは私のこの早口が苦手なのかもしれない。
くしゃくしゃと子供っぽい仕草で自分の髪をかきむしり、私の希望をほぼ全面的にのんでくれた。



「―――私、これ以上出世するんですか?」



後書戯言
副長との関係はこんな感じに。
ちょっとずつ出世していくヒロイン。
07.02.10
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