21.夜の友人


真夜中。
交代を終え自室に戻ると、隣りの部屋から灯りが漏れていた。

耳を澄ませば規則的な息遣いと紙を捲る音。


(まだ起きてるのか?)


が書庫への入室許可を貰ったのは3日ほど前。
それ以来、暇さえあればあの物置としか形容できない恐ろしい部屋に入り浸り書物の山をひっくり返している。
お陰で少しずつ中は整頓されてはいるらしい。
しかし明らかにゴミと分かるメモ書きや使用済みのダンボールが捨てられてはいるものの、面白そうな本を見つけてはその場で読みふけるため作業は遅々として進まないようだ。

当然通常の女中としての仕事は変わらずある。
だから彼女はそれらを部屋へ持ち帰り、夜遅くまで読んでいるのだった。

書類仕事ですら出来る限り回避したい俺は好んであんな小難しい本を読む気が知れない。
本を読んでいる時のの集中力は凄まじく、話し掛けた位では当然気付かない。
ある意味尊敬すると共に、書庫が解放されて以来話す機会が減った気がしてつまらないのも、悔しいが本音だった。








女中の朝は早い。

隊士が揃う前に朝飯の支度をし夜番の隊士の為に風呂を沸かす。

一体彼女はいつ寝ているのだろう?



寝不足からか、日に日に顔色が悪くなっている気がする。
仕事振りは変わらず、隊士たちへの気配りは完璧だ。
用を言いつけられれば笑顔で応じ、他愛の無い話にも付き合っている。

今までと変わらない笑顔。

(夜寝て無いヤツがなんでそんな顔できるんでィ)




そして今日、山崎がパソコン一式をどこからともなく持ってきた。




今度こそ、の部屋の灯りが消えることが無くなった。






***





深夜、猛烈な吐き気に襲われて急いでトイレに駆け込んだ。
このときばかりは、この酷い部屋割りに感謝した。

最近めっきり食欲が落ちたせいで一旦吐いてしまうとあとはひたすら胃液がこみ上げてくるだけ。

生理的な涙を拭い洗面台って口を濯ぐ。

ふと顔をあげ視界に入った鏡には、酷く歪んだ自分が映っていた。







「大丈夫ですかィ?」

「っ!?〜〜っそ、総悟くん・・・・・・」


部屋へ戻る途中の廊下。
白い寝間着に身を包んだ総悟くんが気配も無く佇んでいた。
さすがは隊長とでもいうべきだろうか。
この子は時々驚くほど気配がない。
たった今一仕事終えてきた胃に大打撃だった。


「な、なにが?」

「具合、悪ィんだろ」

「ううん。お手洗いに行ってただけだけど?」

「ゲロ臭ェ」

「・・・・・・そ、そう言うことは思ってても口に出さないで下さい」


ちょっと気にしてたのに。


「ウソでさァ。でもすげェ苦しそうな声聞こえてやしたぜ」

「何聞いてくれちゃってるんですか」



尾けていたのだろうか?
なぜか少し怒った様子の総悟くんと向き合っていられず、素早く横を通り過ぎようとすると、すれ違いざまに腕をとられる。


「ちゃんと寝ないからですぜ」

「〜〜っ、これから、休むんだから、離して」


収まっていたはずの吐き気がまた戻ってきた。
ぞわぞわと得体の知れない感覚が足元から這い上がってくる。


頭の上で何か言っているような気がするが、口元を押さえ座り込んだ私には聞こえなかった。


後書戯言
シリアス続きます。
07.08.05

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