22.紛れ込んだ先は不知火の町
「はい、水」
「・・・・・・あ、りがとう、ございます」
状況を説明すると、第二派に見舞われ、総悟くんにトイレに担がれ、布団に投げ込まれ、今に至る。
汲んできたお水を渡してくれる顔がこの上なく不機嫌で目を合わせるのが怖い。
受け取ったコップを傾ける私に重い沈黙が圧し掛かる。
口をつけると、少ししょっぱい味がして、塩が入っていることに驚いた。
本当はスポーツドリンクとかの方がいいのだけど、贅沢は言えないと微妙な味の水を流し込む。
(ホント男所帯だなー)
苦労して飲み干すとすかさず持ってきていた水差しからおかわりを注がれる。
「医者、呼びやすか?」
「へ!?―――え、いや、全然!へっ!?」
「何うろたえてんでィ。やっぱ医者に―――」
「ホント、いらないから!ちょっと調子が悪かっただけで「調子が悪いならちゃんと寝なせぃ」
医者を呼ぶかと問う総悟くんの目は驚くほど真剣で、この体調不良の原因がはっきりしている分その視線が痛かった。
――――――ちゃんと寝なせィ―――
出来るものならそうしてる。
自分で始めたこととはいえ、少し後悔しないでもない。
殺風景だった部屋に積み上げられた数々の専門書が目に入り、ここ数日間で仕入れた情報が洪水のように思考に押し寄せてくる。
この惑星の組成
人間――と思われる生物――の組成
歴史
文化
「何を調べてるんですかィ?」
どれをとっても、私のいた世界と同じで。
「ここのことを、ちょっとね」
地球と言っても差し支えの無い惑星。
名前も「地球」だし、月もあれば太陽系も揃っている。
人間だってそうだ。
構造はなんら私の世界と変わらない。
緑色の血だったり、手足が伸びたり、目からビーム飛ばしたりなんかしない。
・・・・・・マヨネーズ飛ばす人はいるらしいけれど。
「ふーん・・・・・・こっちも?」
基本構造は一緒。
大きく変えているのは「天人」の存在。
そんな生き物、元の世界には存在しなかった。
あの日、一度だけ外出した時見た不思議な生物たち。
「うん・・・・・・本だけじゃ、分からないこともあって」
彼らに関する記述は驚くほど少ない。
記述が少ないというより、「天人」と呼ばれる地球外生物が多すぎて情報が薄い。
出版物に規制が掛かっているのだろうか。
当たり障りの無い、例えるなら小学校の教科書のような記述ばかりで、物足りない。
そこで手を出したのがインターネット。
初めて触るソレは、驚くほど私の世界と同じで。
中途半端に同じ世界。
情報収集の傍ら、覚えている限りのURLを打ち込んでみるが何もヒットしない。
私の知る固有名詞は尽く弾かれ、何か1つでも「私」の世界と繋がるものがあるかも、という小さな期待もかき消された。
「私」と繋がるモノは何も無い。
「あんまりのめり込むのは良くありませんぜ〜。ネットとかゲームばっかやってっから最近のガキはモヤシか白豚みてーなんでさァ」
「私」と同じ、だけど明らかに違う「人間」の形をした生き物が闊歩する国。
「うん。私夢中になると周りが見えなくなっちゃってさ。気をつけるね」
現実感の無い世界。
明らかに異分子である私は、なぜここに存在するのだろう。
本当に存在しているのだろうか。