24.味の無いデートの結末
「――さん、さん!」
ちょっとぼんやりしすぎた。
視界を肌色の物体がひらひらしてるな、と思っていたら肩を掴まれてがっくんがっくんされていた。
「大丈夫ですかィ」
「ちょ、あんま、大丈夫じゃ、な・・・・・・」
「大変でさァ!医務室ゥウウ!!」
「違っ、揺らすな、気持ち悪っ」
「また吐く気ですかィ」
「ちっがう!」
わざととしか思えない仕打ちに、掴まれた肩を振り上げた両手で振り解く。
あっさり離してくれた総悟くんは一瞬目を見開いた後、ため息と共にきびすを返す。
「もういいでしょう。俺ァ腹が減ってもう倒れそうでねィ」
後をついて来ることを疑わない背中。
離れるタイミングを逃していた私を見抜いていたのだろうか。
いや、そこまでは考えていないだろうな。
「お昼、あっさり目がいい」
「いやでィ。肉食いてェ、焼肉」
「いや、また吐くから」
「まじでか」
***
さすがに焼き肉は食べなかったけど、間を取って定食屋さんでお昼を食べると、ドライブだと言って街を外れた海を臨む丘まで連れてこられた。
こうして遠くまで来るとターミナルが一際目立つ。
空には常に何かが浮いていて、元の世界の飛行機よりも傍若無人に飛び交っていることが伺える。
不思議な光景だ。
本当なら海に浮いているはずの船が空を飛んでいるのだから。
乗ってみたいな―――
そう思った瞬間、お昼に食べた親子丼がせり上がってくる気配がし、お腹の底とのどの奥に力を込めてやり過ごす。
(なんだっつーのよ)
***
「ひやぁあ!?」
ぼんやりと、事故防止の手すりに寄りかかり、地上を見下ろしていると頬に冷たいものが当てられ我に返る。
「―――総悟くん・・・・・・冷たいんですが」
「立ったまま寝そうでしたぜィ」
「そんな器用なコト出来ないよ」
まったく一体どこのバカップルだか。
水滴に濡れた頬を拭って缶を受け取る。
よく冷えたプルタブは反抗的で沈んだ気分をさらに苛立たせる。
「ほら、貸しなせィ」
「・・・・・・ありがと」
「お安いご用でさ」
「・・・・・・なんか、デートみたい」
こんな仏頂面の彼女なんてあったもんじゃないだろうけど。
でも恐る恐る測る距離間とか上滑りする会話とか、初々しくてかわいいなと半分は自分のことなのにどこか遠く聞こえる。
「俺ァはじめっからそのつもりですぜ」
「!?」
飄々と告げられたセリフにそういえばデートしようって誘われたっけと思い出した。
「それは・・・・・・ごめん」
「何がでィ」
「こんな、上の空で」
「・・・・・・全くでさァ。さん全然笑わねェし、飯は綿噛んでるみたいに食うし、顔色真っ青だし」
「ああ、もうホントごめんなさい」
「・・・・・・少しは気ィ晴れやしたか?」
「うん」
「嘘吐くなィ」
「・・・・・・」
淡く笑顔を作って即答してもあっさり見抜かれる。
さすがは嘘を見抜くお巡りさんだ。
でもこんな年下の子に見透かされるなんて、私の二十ん年はいったい何だったんだろう。
「今、なんか失礼なこと考えてなかったかィ?」
「ホント、するどいなぁ」
「今はアンタのコト見抜こうってビンビンに張ってるからねィ」
そう言って向けられた鋭すぎる視線はまるで容疑者を追い詰めているかのようで。
痛いくらいのそれを受けてもぼんやりと笑える自分が不思議だった。
「見抜いてよ」
せっかく作った笑顔が崩れないよう苦心してるうちに口が勝手にしゃべり出す。
「私が何なのか、教えてよ」
刺すような視線を送ってきていた瞳がきょとんとまばたきする。
「何って、アンタはだろ?自分で言ってたじゃねェか」
「私が言ってるだけだよ。何の証明もない」
「・・・・・・嘘だってェんですかィ?」
「だから―――見抜いてよ」
少しずつかみ合わない世界。
日に日に稀薄になっていくのは元の世界との違和感よりも異分子である私の存在。
共通点を探しても、相違点を探しても、変わらずあるのは「私」という違和感。