27.のらりくらり事情聴取
ぶっ
がふっ、ごほっ
聞きなれない言葉に、さんの呟きに含んだお茶を吹き出してしまった。
向かいではそれをモロに被った土方さんもむせていた。
「何してんですかィ土方さん。水も滴る土方ごっこなら外でやってくだせィ」
「誰、の、所為だと、思って、」
「さんでさァ」
「はえ?私!?」
自分が原因だとは欠片も思っていなかったらしく、さんはまだテレビに映る手配写真を見ていた。
むかつく
訳の分からない苛立ちに任せ、奇妙な声を上げてこちらを振り返っている隙にリモコンに手を伸ばし、テレビの電源を落としてやる。
ブチンと何かが切れるような音の後、画面が暗転する。
「あ!ひどい。見てたのに」
「俺たちは現場にいたんでねィ。今更報道なんて見たっておもしろくもなんともねェんでィ」
「何言ってるんですか。公務員たるもの市民に自分たちがどう映っているか常に把握しておくべきですよ!」
「んなこと言ってアンタは桂の写真が見てェだけだろ」
「桂って誰ですか」
「何とぼけてんでィ。今アンタ見惚れてたじゃねェか」
「・・・・・・かつら」
冷たく言い放つと、図星を指されたのか目を逸らされた。
小さく名前を復唱しているのが聞こえた。
むかつく
「お、お前、桂みてーなのが好みなのか?」
やっと呼吸が落ち着いたらしい土方さんが動揺しながら口を開いた。
「好みっていうか・・・・・・いや、普通にかっこ良くないですか?一般的な意見として」
「「全然!」」
ハモるな土方。気持ち悪ィ。
「趣味わりィでさァ」
「放っといて下さい」
「あれは指名手配犯だぞ」
「わかってますよ。何なんですかさっきから」
「「・・・・・・」」
男二人に問いつめられている状況で何なんですかはないだろう。
しかし、考えてみるとこんな話題、つまりの好みの話題、になったのは出会って以来初めてかもしれない。
むくむくとふくれあがる好奇心のまま、尋問を始める。
「ロンゲが好みなんですかィ?」
「いえ。男のロンゲは基本的に嫌いです」
「あんな生っ白い女顔が好みで?」
「彼も顔についてはキミにとやかく言われたくないと思うよ?」
「テロリストなんて危険な職業に惹かれてるんですかィ?」
「いいえ。安定志向は強いほうなんで。ていうか惹かれてません」
「じゃあどこがいいんでィ」
さんはなかなか好みを白状しない。
のらりくらりと逸らされているようで気に入らない。
「深い意味なんてありませんよ。思ったままを口にしただけです」
それどころか明らかに気を悪くした様子で、席を立ってしまった。
気分を害したのはこっちの方だ。