28.Mission A.S.A.P
「ちゃんの好きなタイプってどんな人?」
「は?」
昼間何があったのやら、屯所に戻るなり、沖田隊長から変な仕事を押しつけられた。
【の好きなタイプを洗え】
ふざけているにもほどがある。
なぜ真選組の監察ともあろうものがその辺の私立探偵のような真似をしなくてはならないのだ。
なんて面と向かって言えるはずもなく。
いや、まあ俺も多少興味がないとは言えないし。
しかもこの任務、ご丁寧に大至急指定だ。
お陰でこっそり観察という選択肢はない。
ちゃんを知る人がいない以上、本人に聞くのが一番手っ取り早く、正確だろう。
そう思って夕飯の支度のため台所に立つちゃんに直球を投げてみる。
あまりに直球過ぎた所為で第1球は見送られてしまった。
「なんですか?」
「だから、好きなタイプだよ」
「・・・・・・なんか、流行ってるんですか?それ」
しまった。
直球は既に実行済みだったか。
後悔しても後の祭。
ちゃんの訝しげな視線が突き刺さる。
「いや、流行ってるわけじゃないんだけど・・・・・・」
いまさら誤魔化せるはずもなく、冷や汗を流しながら夕飯の支度を手伝うべく、彼女の隣に立った。
決してご機嫌取りではない。
◇◇◇
「そうですねぇ」
手際よく野菜を刻みながらちゃんがしゃべり出した。
それは俺が第1球を投げてから実に10分は経過し、俺が並べていた深めの小皿が調理台に一杯になったたころだった。
手を止めて先を促す。
「あっさりさっぱりした人がいいです」
「あっさりさっぱり??」
何かの味付けのような表現だ。
ちゃんの作業、サラダを盛った皿が次々と出来上がり、端から別の調理台に並べていたお盆へ移すように頼まれた。
「それは顔が?性格が?」
「どっちも。可もなく不可もなく、良すぎず醜すぎない顔に程良い身長。中肉中背がいいですね。さっぱりしすぎな性格はさすがにイヤですけど粘着質な男ほど性質の悪い生き物はいませんから」
「うーん・・・・・・逆にあんまりいなさそうなタイプだね」
「そうだね。だから好きなんですよ」
「・・・・・・うちにはいないな。当てはまりそうなヤツ」
ムサい、ゴツい、オトコ臭い。
真選組を見渡す限りちゃんの眼鏡に叶うタイプは見当たらない。
「そうですねぇ・・・・・・ま、実際好きになっちゃうのは往々にして好きなタイプからはかけ離れたタイプなんだけどね」
「へえ・・・・・・」
それは真選組の中に想い人がいると言うことだろうか。
ちゃんと親しい隊志たちの顔が浮かんでは消えていく。
つまりほとんどの隊志なわけで。
暖めていた煮物がさっき俺が並べた小皿によそわれていく。
俺は出来た先からやはりお盆に移していった。
「もしかして・・・・・・好きな人いるの?」
カツン。
小さな音を立てて、ちゃんは動きを止めた。
顔を上げるとなんとも読めない表情。
「まさか」
ほんの一瞬後、実に下らないと言わんばかりの態度で否定された。
さて、この間をどう読もうか。
◇◇◇
「ていうか、ちゃんまさか彼氏いる!?」
「いませんよ」
「ここじゃなくて、その、こっちに来る前に・・・・・・」
「・・・・・・いましたよ」
ざわざわと人の気配が集まってきた。
夕食の時間になってしまったようだ。
「タイムアップです」
にっこりと一分の隙さえない笑みと共に、綺麗に配膳されたお盆を手渡された。