31.菩薩にはなれない


ちゃんはさぁ、彼氏のケツが毛だるまだったらどうする」



「はあ?」




突然の質問に、意味が分からなかった。


お偉いさんの接待の警護とやらで遅くに帰宅した近藤さん以下精鋭部隊は、公務だったから当然、お酒の匂いはしなかった。


「けだるま?」


頭に毬藻の達磨が浮かぶ。
毬藻は毛じゃないか。
いや、でも毛辺だ。

でもそれとケツが結びつかない。


「アンタ女に何聞いてんだ?」


さん、こないだの羊羹もうねェんですかィ?」

「今朝誰かさんがつまみ食いしたのが最後です」


ちゃーん。無視しないでよー。大事なコトなんだよー」


羊羹の代わりにあられパックを出してあげる。
欲しかったものと180度逆の味に総悟くんは口をとがらせながらも封を切った。


「ちょっと質問の意味が分からないんですが・・・・・・」

「だからね、ケツ毛ぼうぼうの男をどう思う?」

「けつげ?」

「おい、おまえも女がケツ毛とか言うなよ」


引き気味の副長の言葉にようやく意味が分かった。


「ああ、ケツ毛ですか。・・・・・・どうもしませんよ?別に関係ありませんし」

「なんで!?毛だるまだよ!?彼氏は物凄く悩んでるかも知れないのにだよ!?」


いつの間に私はそんな毛深い男と付き合っていることになっているのだろう。


「毛深いのはの男じゃなくてアンタだろうが」

さんは彼氏なんかいませんぜ」

「うわーっ!トシ!何バラしてんだ!せっかくさり気なく聞いてるのに!」

「今のがさり気ないつもりだったのか・・・・・・」

さんおかわり」


これ以上ないほど真剣な近藤さん。
あきれ顔な土方さん。
そして全く興味がなさそうな総悟くん。


「いくら彼氏でもケツ毛と関わることってあんまりないですからねぇ」

「おい、んな真面目に答えることねーぞ」

「トシはちょっと黙ってて!」


「ケツより胸毛が頭髪並みに生い茂ってるほうが嫌ですね」


「・・・・・・それはもやは人間なのか?」

「ゴリラだって胸のあたりはもっさりしてねェでさ」

「でしょー?」


ぶっちゃけ、ケツ毛云々は人間性に全く関係しない。
そんなことにケチを付けるようなヤツこちらから願い下げだ。
しかしそれがコンプレックスならどう受け取ってしまうかわからない。

近藤さんは相変わらず(いや実は胸毛も結構・・・でもケツ毛の方が・・・確かにそん
なに見せるもんでもないけど・・・・・・)とブツブツ呟いている。

ケツ毛よりも今の状態の方がカッコ悪いと思うけど。


「あ!それに毛深い人は情が深いっていいますよ!」

「うーん・・・・・・そうは言ってもさー」

「だからお前はどこでそういうネタを仕入れんだ?それに、それを言うなら『毛深い女は』だ」

「へー、ならさんもぼうぼうですねィ」

「セクハラで訴えますよ沖田隊長」


今更だけど話題が自分に直結してくると急に腹が立つ。


「逆にツルツルなら『怪我無い』で縁起物でさァ」

「お巡りさーん、痴漢が精神攻撃かましてきますー」

「おー、奉行所行けー」

「ちなみに土方さんは験担いで自分で剃ってるからツルツルです」

「マジでか!?」

「ホントにお前はことごとく俺を貶めたいらしいな」


ツルツルかぁと見やると本気にするなと叩かれた。


「そうか・・・・・・やっぱりダメなんだ・・・・・・」

「ちょ、何でいきなり落ち込んでんですか。大体そんなこと私に聞いても仕方がないでしょう。彼女さんは毛深い方が好みかも知れませんし」

ちゃんは?」

「はい?」


決して華奢だなんて口が裂けてもいえない体を丸め、のぞき込んでくる様子は、とても真選組を束ねる人物には見えない。


ちゃんは毛深い方が好みなの?」

「いえ、私は特に「やっぱり毛だるまは嫌われるんだぁぁああああ」こだわりはありません・・・・・・って言おうとしたんですけど、聞こえてませんよね」


人の台詞を遮って、物凄い勢いで走り去る後ろ姿に毬藻の達磨を重ねてみるがあまりピンと来ない。

もしかして傷つけたりとかしてしまったのだろうかと口にすると、ちょっと頭が弱いんだと身も蓋も無い返事が返ってくる。
仮にも大将になんてことを。


「本当に毛だるまでも平気なんですかィ?」

「うーん」

「俺でも?」

「・・・・・・それ以前にキミの場合、黒いの?黄色いの?」


「「・・・・・・・・・・・・」」


達磨云々よりもそっちの方が気になる。
私はもちろんのこと、真選組の人たちは基本的に日本人然とした、黒目黒髪。
明るい栗色の髪を持つ総悟くんの他のトコはどうなんだろうか。

絶妙に柔らかそうな色合いを出している頭を眺めていると、「亜麻色の髪の乙女」を思い出す。


「仕方ねェですねィ。特別に見せてあげまさァ」


乙女?いやないない。と一人ノリ突っ込みを繰り広げていると「特別ですぜ」といたずらっぽい笑みを浮かべた本人に腕を取られる。

なんですか、その表情は。
亜麻色に謝れ。


「ちょいとこっち来なせィ」

「いえ、遠慮しときます」

「俺は別にここでもいいんですぜ」

「良くない!ちょ、副長、助けて!」

「自業自得だ」

「助けないと備蓄マヨよく効く除毛剤ですって局長に紹介しますよ」

「よぉし、総悟。たっぷり拝ませてやれ」


「うわーんっ!副長のツルツルがぁ!明日から屯所でマヨネーズ拝めると思うなよ!」



今や真選組の『食』を握っているのは私。
普段なら名前を口にするのも嫌いな黄色いのアレのお陰で間一髪、私の言葉に本気を感じた副長がようやく助け舟を出してくれて事なきを得た。


貸し一つな、と言われた笑みは凶悪すぎて、100%安堵は出来なかったけど。



後書戯言
私は彼らにナニをさせたいのだろう。
08.06.07
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